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第2話 伝説の足跡

ここはデメルの村。
今までは様々な植物に恵まれていたが、
ここ半年にも及ぶ日照りで作物は枯れ果て、人々は飢えていた。
村人達はいつものように井戸端会議である。
話題はもちろん、この日照りと飢餓である。
老人「困ったものじゃな…
   こんなに日照りが続いていてはまともに生活もできん…」
青年「子供達に水や食料を優先させているのに泣き声が絶えない…」
そこへ、あの少年がやってきた。
村人達はそれどころではなかったのだが。
老婆「よくこんな寂れた町に遊びに来るねぇ、坊や。
   ここはデメル。ずっと日照りが続いているんじゃ。
   みんな腹を空かせているんじゃ。」
商人「こんな所に何しに来たんだ?冷やかしなら帰ってくれよな。
   この日照りを止めてくれるって言うんなら別だけどな。」
青年「もしかしてさ、こいつがその日照りを止めてくれる伝説の旅人の子孫だったりして」
老人「…それはないじゃろう。」

大昔にも、この町に飢餓が訪れた。
そのとき、異国の地から一人の旅人が訪れた。
彼は「雨乞いの石」を高く掲げて雨を降らし、この町の飢餓を救ったのである。
そして彼は、その石が悪用されないために、
自分の子孫しか知らない合言葉で封印したのである。
そう、この町の地下にある祠に・・・。
彼は街を去るときに、こう言ったという。
「この町に再び飢餓が訪れるとき、私の子孫がこの町に来て封印を解き放ち、
 この"雨乞いの石"で再び雨と実りをもたらすだろう」と。
古い言い伝えだが、人々にはこの伝説に頼るしか為す術がなかった。

老人「おい、お前。お前は伝説の旅人の子孫なのか?
   この町を救いに来たのか?
   なになに、すいかがたべたい?…何の話をしておるんじゃ?」
商人「伝説の旅人じゃなくても、合言葉を知っていればいいんだよ。
   雨乞いの石さえあれば、雨を降らせられるんだろ?」
老人「おい、お前、合言葉を知ってるか?
   なになに、すいかがたべたい?
   …お前はそれしか言えんのか!!」
何を言っているのか、少年には理解できなかった。
どんどん詰め寄ってくる男達には、日照りとはまた違う暑苦しさがあった。
青年「……!! 長老、それだよ!!「すいかがたべたい」だよ!!
   封印を解く合言葉!!」
老人「お…おお、そうじゃったのか!!
   そうと分かれば話は早い。早速雨乞いの石を取りに行くんじゃ!!」
それを言い放つやいなや、彼らは祠のある洞窟へ走っていった。
このままでは日照りの中、独りで取り残されてしまう。
そう感じた少年は、仕方なく彼らの後をついて行った。

少年は3人を見失ってしまったが、
洞窟の中を響き渡る大声のお陰でまた見つけることができた。
3人「すいかがたべたい!!すいかがたべたい!!すいかがたべたい!!」
少年は、ここまで事が進むことなど思っていなかった。
3人は少年に気づいた。
そしてどういう訳か、怒りに震えながら少年に叫び始めた。
青年「おい、どういうことだ!!封印が解けないぞ!!」
老人「すいかがたべたい、封印を解く合言葉ではなかったのか!?」
商人「よくも俺達を騙したな!!」
少年は、あまりの威圧に後ずさったが、すぐに背中が壁についた。
3人「お前の母ちゃんデーベーソー!お前の母ちゃんデーベーソー!」
幼稚に罵倒を続けるので、少年も完全に圧倒されてしまう。
いや、半分は呆れだ。
青年「こいつむかつくなぁ。」
老人「それにしても、あまり大声を出していたから腹が減ったのう。」
商人「すいかがたべたいってずっと叫んでいたから、
   本当にすいかが食べたくなったよな。」
老人「そうじゃのう。すいかがたべたいのぅ。
   …じゃあ帰るとするかのぅ。骨折り損のくたびれ儲けじゃ」
3人は疲れ切った様子で祠を後にすることにした。しかし…
老人「お、おい、見るんじゃ!!封印が解けておる!!」
そこにいた4人は目を見張った。
なんと、封印が跡形もなく消え去っていたのだ。
その奥には、確かに先程まで無かった光景―――
見守るように配置された石像と、雨乞いの石が安置されていた。
商人「なんで開いたんだ?
   「すいかがたべたい」じゃ開かなかったのに…」
4人はお互いに目を見合わせた。
1人ほど、何が不思議なのかすら分からなかった人間がいるが。
老人「……心じゃ…
   我々が心からすいかがたべたいと願ったからじゃ。
   上辺だけの「すいかがたべたい」じゃダメだったんじゃ…」
青年「そういうことか…
   よし、早速雨乞いの石を手に入れよう!!」
3人は解けた封印の奥に歩いていった。
そして帰り際、どういうわけか心からのお礼を受け取ってしまった。
商人「おかげでこの村は助かるよ。
   雨乞いの石は貰っていくよ」
青年「ありがとうな。すいか、食べたいよな。
   すいかを育ててみるから、実ったら食べに来いよ。」
3人は祠を出ていった。
少年は雨乞いの石のあった部屋へ入ってみた。
隅に置かれた宝箱が、暗闇の中で微かに光ってるのが分かる。
開けると、先ほどの洞窟で見たのと同じ、竜の玉が入っていた。
少年は祠を出ようとすると、不思議な服を纏った一人の男と鉢合わせた。
男 「私は伝説の旅人の末裔。
   この村を救うために、遠い異国から封印を解く合言葉を伝えに来たのだ。
   …ところで、もう封印が解けているようだが…?
   何?すいかがたべたい?
   違う、合言葉は「お前の母ちゃんデーベーソー」だ。
   我々の一族しか知らない秘密の合言葉だ。
   …なぜだ!?「すいかがたべたい」で開いたというのか!?」
少年は首を振ったが、ただ唖然とする旅人はそれすら気づかなかった。
男 「そんな馬鹿な…我々一族の誇りが……」
目の前で手を振ってみても反応がない。
仕方ないので、立ちつくしている旅人を残して祠を後にした。
村を離れたとき、空からの日射しは前よりずっと柔らかなものになっていた。
白い雲が急ぎ足で空を流れていた。
・・・もうすぐ雨が降るのだろう。

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