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第3話 巡り会う運命

少年はデメルの町からさらに北にある洞窟へ行った。
外では大雨が降り始めていたので、洞窟も湿気に満ちていた。
そう思うか思わないかの内に、何かにぶつかった。
??「痛たたた、誰だよ!いきなりぶつかってくるのは!」
暗くてよく見えないが、青い体に長い耳――青兎である。
最も驚いたのは、2本の足で立っていることだ。
青兎「何?すいかがたべたい?俺は人参が食べたいんだ。
   どうだ、参ったか」
…嫌な沈黙が流れた。
露が垂れる音が何回響いただろうか。
青兎「…お前、デメルの町を救った旅人だろ?
   だったら強いよな。小耳に挟んだから先回りしてきたんだけどな…」
この青兎、少年のリュックが暗闇の中でかすかに紅く輝いてるのに気付いたようだ。
青兎「あ…!! お前、竜の玉持ってるのか!?くれ!!俺にくれ!!
   まさか、竜にすいかくれとは言わないよな?
   …すいかが食べたい?
   本気かよ。もったいないだろ。貰うなら人参を貰え!
   俺の名前は「うな」。
   人参を探して旅をしてきたが、大陸中探してもどこにも人参は無かった。
   だから、もう竜の玉しかないんだ。
   すいか探すの手伝ってやるからさぁ、
   すいかが見つかったらその竜の玉、俺にくれよ。」
うなはここまでをやや早口に話しきると、少年の方へ歩み寄った。
うな「な、いいだろ?」
ついつい頷いてしまった。
断ってもついて来るのなら変わらないだろう。
これもこの兎の作戦だとは薄々分かっていたのだが。
うな「そうと決まれば話は早い。
   早速この洞窟を抜けて、ポワンの町に行くぞ!!
   …え〜と、お前、名前は何ていうんだ?
   …すいかがたべたい?俺の話聞いてるのか?
   …すいかがたべたい?お前の名前はそれなのか?
   …すいかがたべたい?もういい、俺が勝手に決めるから。
   そうだなぁ…、変な帽子被ってるから、お前は「すいか帽」だ!!
   本当の名前が何であれ、俺はそう呼ぶからな。」
少年は自分の名前など分からなかった。
そもそも、親が誰なのか、どこで育ったのか、そんなことすら全く記憶にない。
記憶にあったのはすいかの味だけ。
少年は自分の名前というものを覚えておくことにした。
うな「おい、すいか帽。何ボーッとしてんだよ。早く行くぞ。
   もしかして、ここのモンスターが怖いのか?」
少年は、初めて名前を貰った人間は、皆同じように嬉しいのだと思った。

すいか帽とうなは洞窟を抜けた。
あの大雨の及ばない所まで来たのか、空は青く晴れ渡っている。
数時間ぶりの日差しに目を白黒させながら歩いていった。
うな「あそこがポワンの町だ。
   いろいろあるけど、中でもオークション会場が有名だな。
   世界中の珍しい品が入ってくるからな。
   例えば、すいかとか……」
すいか、と聞いて急にすいか帽は走り出した。
うな「おい!…最後まで言わせろよ…
   仕方ないか。待てよすいか帽!!」
うなはすいか帽の後を追っていった。

うな「ハァ、ハァ、よくこんなに、走れるよな、あいつ、ハァ…
   …あいつどこに行ったんだ?
   まぁいいや。あいつのためにもすいかを競り落としてやるか」
うなは辺りを見回したが、すいか帽は見つからない。
が、諦めてステージの方を見ると、最前列に立ってウロウロしているすいか帽を発見した。
うな(ゲッ、あいつ何してんだよ!
   …今は知らないフリしておくか…)
そう思ってる内に、オークションは始まったようだ。
大勢の観客たちが司会者に大声で返事をしている。

司会「さぁ、今日もオークションが始まりました!!
   記念すべき最初の品は…これだぁ!!」
鼓動の高まるBGMと共に現れたのは、なんとすいかだった。
この時期にしては色も形もなかなかいい。
司会「おーっと!!いきなりすいかが出たぁ!!
   まだどこにも出回っていない、初物だぁ!!
   さぁ誰が競り落とすのでしょうか!!」
うな(いきなりすいかが出た…!?
   これは…すいか帽の所に行かなきゃな。)
うなは人混みを抜けて、すいか帽の所まで来た。
うな「おいすいか帽、やりかた分かんねぇだろ?
   このオークションはな…」
言おうとしたが、張り裂けるような大声で掻き消された。
青年「すいかを下さい!!」
司会「おおっと、おにいさん70パワー!!」
人混みをかき分け、王様のような派手な格好をした男がステージの前の方へ歩いてきた。
王様「ワシは世界中の初物を集めている初物大王だ!!
   初物のすいか、わしによこせぇ!!!」
司会「王様、なんと250パワー!!」

うな「見ての通り、金じゃない。気持ちだ。
   その品が一番欲しい奴が品を競り落とせるってわけだ。」
すいか帽は、言うが早いかすいかに向かって走り出した。
司会「お客さん!!品物にお手を触れないように!!
   欲しいなら競り落として下さい。
   え?すいかがたべたい?そうです。そう思って下さいね。
   この「スカウター」で測定しますから。
   ええっと、…」
司会者の顔が一気に青ざめ、会場はたちまち静寂に包まれる
司会「いち、じゅう、ひゃく…せん…まん……
   じゅ、じゅ、…10万パワー…」
会場は騒然となる。
きっと主催者は今にも気を失いそうになっていることだろう。
そのとき、あの初物大王がステージ前まで来た。
王様「久々に本気を出せそうじゃ。ぬどりやぁーーーーー!!!」
司会「王様、20万パワー!!
   今までに無いハイレベルな戦いです!!」
2人はステージの上で戦いを続けた
このような凄まじい戦いは前例がないのだろう。
会場の誰もが、この戦いに目が釘付けである。

司会「王様、30万パワー!!」
そのとき、すいか帽の周りの空気が揺らめき、僅かに光さえ放ち始めた。
司会「おおっと!!!すいか帽子さんからオーラがっ!!
   パワーはどんどん上がって、50万、60万、80万…、
   ああっ!!スカウターが壊れてしまいました!!
   もう測定できません!!」
王様「何、ワシだって、真の力を見せてやる!!
   きょーだーいーへーんーしーんー!!!」
初物大王は巨大な鬼のような形相となり、すいか帽に負けず劣らずオーラを発した。
ぶつかり合う2人のオーラは共に勢いを増していく。
そのとき、広がったオーラに司会者がオーラに巻き込まれた
司会「わぁ!オーラが、オーラがぁ!
   …すいかが食べたーい!!」
オーラはみるみる規模を増していく。
巻き込まれた人々は皆、例外なく叫び始めた。
 「すいかが食べたーい!!」
うな「大変だ!!あのオーラをを浴びるとすいかが食べたくなるぞ!!
   みんな早く逃げるんだ!!」
会場の人は皆逃げていく。
逃げ遅れた人からは、悲鳴に続きあのセリフが聞こえてくる。
 「すいかが食べたーい!!」
うなはなんとか町の外れまで逃げた。
町を包む光は、夜になっても、次の日になっても止まなかった。

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