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第17話 閉ざされる希望

温暖な気候のこの町に、夕日が見える時間が近付く。
タヒチ「この辺りなんだけどなぁ…」
すいか畑は特別見通しが悪いわけではない。
あまりに広すぎて遠くがかすんでいるのだ。
と、彼方の陽炎の中に巨大な影が現れた。
タヒチ「出た!あいつだ!!」
2人は狂ったように大暴れしている魔物を見つけた。
体中に大きな鍵を纏っている。
飛び出た目は焦点がまるで合っていない。
足が無く、飛び跳ねて進んでいる。
そして、耳を刺すような雄叫びまで聞こえる。
すいか帽は何故かこの魔物に見覚えがあるような気がした。
タヒチ「よし、先手必勝だ。武器を構えろ!」
すいか帽は腰の大剣を抜きタヒチの後を追った。

魔物は叫び声を上げて2人に突進してくる。
タヒチ「来るぞ!」
魔物は大口を開けてそこから毒々しい色の息を2人に吹きかけた!
2人は毒を浴びてしまい、体力が奪われていくのが分かる。
タヒチ「げ、解毒!」
タヒチは魔法で2人の毒を消すが、魔物はすいか帽のすぐ前まで迫っていた。
すいか帽は剣を構えるが、魔物は叫び声を上げてその動きを鈍らせる。
すいか帽が怯んでいると、すいか帽の目の前に巨大な鍵が現れた!
そして、すいか帽に溶け込むように鍵が入り、90度回転する。
魔物 「グルォーーーズ!!」
魔物の叫び声に続き、すいか帽の周りに半透明の石のような物が現れる。
そして冷たい金属音が響き渡り、すいか帽はその謎の石版に封じこめられてしまった…。
体が全く動かない。痛みは無いが意識はある。

タヒチ「やると思ったぜ出目金野郎!!
    西瓜職人一族50年の秘技!!開錠!!」
タヒチは妙に気合いを入れてすいか帽の頭上に鍵を出現させた。
そして、すいか帽の石版に溶け込むように入っていき、
すいか帽の動きを封じていた石版は溶けるように消えていった。
動けるようになったすいか帽は得意の剣技を浴びせようと魔物に向かっていく。
タヒチ「よし行け!後ろに回り込め!」
すいか帽はこのタヒチの言動に疑問を抱きながらも素早く魔物の後ろに回り込み、
剣を大きく振って魔物を横に切り裂いた。
魔物が血を流して倒れると、体に纏っていた鍵が音を立てて落ちていった。

タヒチ「や…やったぁーーーーー!!!」
2人は両手を上げて喜んだ。
タヒチ「やったな!これでまたすいかが作れる!」
2人とも涙を流して喜ぶ。
西瓜にかける想いは2人とも誰にも負けてはいない。
タヒチ「これで長老や町のみんなも考え直してくれるはずだ!」
2人は町に向かって走っていった…


タヒチ「なんでだよ!!」
机を叩く音とタヒチの叫び声が町中に響き渡る。
老人 「仕方ないのじゃ。ランドはもう6分の1は完成しておるんじゃ。
    今更中断など…」
タヒチ「なんでだよ!!おれたち西瓜職人がすいか作るのやめてどうすんだよ!!」
何度も机を叩く音が耳を打つ。
兵士 「タヒチ…」
タヒチ「なんだよ!」
兵士 「すいかランドで儲けまくってパァーッと遊ぼうぜ。」
タヒチは心無い言葉に更にショックを受けてしまった…
2人は気力を失ったまま、もう一度すいか畑に向かった。

しかし、そこにいたのは、先程の魔物…。
しかも、3匹…
タヒチ「と、どうなってるんだ!?」
1匹でもかなりの苦戦を強いられたが3匹となるととても2人では倒せない。
タヒチ「ヤバイ、逃げるしか…」
タヒチが声を失ったのも無理はない。
タヒチのすぐ後ろにいたのは、腰に巨大な鍵を差した、チェス駒のような形の魔物。
世界七魔王の1人、「かぎ魔王」だったのだ。

世界七魔王…
世界最強と恐れられる7人の魔王の総称である。
それぞれが協力することはないと言われるものの、1人1人の強さでは誰もかなわない。
たとえ数十人の戦士が集っても倒せないという。
2人はその1人であるかぎ魔王の兄を殺してしまったのだ。

タヒチ 「あ…あの…か、かぎ魔王様…ですよね…?」
かぎ魔王「私の兄を殺したのは…お前達か?」
頭の中に響くような低い声がその迫力を後押しする。
タヒチ 「え、その、ち、違います…私では…」
タヒチはそこまで言ったが、次の瞬間かぎ魔王は、
腰に差している巨大な鍵でタヒチを数十メートルほど吹き飛ばした!
タヒチはうつ伏せのまま起きあがらなかった…
すいか帽は助けようとそちらに向かおうとしたが、かぎ魔王の兄達が行く手を塞いだ。
かぎ魔王「お前達が私の兄を殺したのは分かっているんだ…」
その殺気に満ちた声にすいか帽は硬直する。
かぎ魔王「だが、お前がここに来ることはかげ魔王に聞いている。
     お前を連れてくるようにヤツに言われたのでな。
     もちろん、お前に危害を加えるつもりはない。
     さぁ、おとなしく付いてこい。」
すいか帽はもちろん剣を抜いて構える。
かぎ魔王「だまって付いてくればいいものを…」
かぎ魔王はすいか帽の目の前に巨大な鍵を出現させた。
かぎ魔王「クローズ!!」
またもすいか帽は石版に封じられてしまった…
かぎ魔王「少し重いな。さて、オーボンに行くか。」
かぎ魔王はすいか帽を担ぐとそのまま宙に浮かぶ。
すいか帽は全く身動きがとれず、為す術もなくかぎ魔王に連れて行かれた…

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