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第19話 集結

大昔、オーボン国とサレチ国という国が大規模な争いをした。
その戦いで勝ったのはオーボン国。
敗れ滅びたサレチ国だが、実は「キルフェボン」として山奥で何不自由なく存続していた。
しかし、その歴史は誰にも知られることなく途絶えたと言われている。
その跡が、先程3人がいた廃墟なのである。
うなはそれを、にわかにだが知っていた。
そして、現在はビュータン3世が治めているはずのオーボン。
その国が今確かにすいか帽とかぎ魔王の見てる間に、
かげ魔王によって一瞬にして瓦礫の山と化したのだ。
すいか帽はオーボンの事を覚えていたので信じ切れない。

かげ魔王「俺がお前を連れてこさせた理由を教えてやる。
  お前がさっきいた廃墟を現在とすると、今お前がいるここは過去。
  そして、俺がお前に滅ぼされるのは未来と言うことだ。
  今の俺にはタイムスリップなんてできないが、ある時、未来の俺が会いに来た。
  未来の俺は何者かに負けてボロボロだった。
  未来の俺をボロボロにしたのが…お前ら三人だ。
  それも、俺の持つ竜の玉が欲しいがために…。
  俺は世界の闇を統べる王だ。
  俺は俺を倒すことになるお前を、まだ弱い内に殺しておく。
  納得か?すいか帽さんよぉ?」
すいか帽は首を振ろうとする。が、クローズの魔法で動けない。
かげ魔王「…おい、かぎ魔王。さっさとクローズを解けよ」
かぎ魔王「そうしたらお前が殺されるだろう?」
かげ魔王「おっと、俺の実力を甘く見すぎじゃねーか?
     血を吸われたくなければさっさとクローズを解け!」
かぎ魔王は無言ですいか帽の石版を開く。
すいか帽は魔法が解けても微動だにしない。
かげ魔王「さて…いい相手になりそうだな。」
かげ魔王はすいか帽と向き合い、両手を構える。

と、その時、遠くから何かが飛んでくる音が聞こえてくる。
3人はそれが炎だと分かり、とっさに身をかわす。
かげ魔王「まさか…」
3人の目に同時に飛び込んできた、帆船に乗った人影。
そう、うな、かるび、そしてタヒチである。
かぎ魔王「あの男、生きてたのか!?」
かげ魔王「あいつらか…飛んで火に入る夏の虫ってヤツだな…」

うな  「いた!すいか帽だ!」
人影が3つ見える程度だったが、状況を考えればその中の1人はすいか帽だろう。
タヒチ 「ヒィィッッ!!やっぱりかぎ魔王がいる!!」
先程から横目でかるびの膝元ばかり見ていたタヒチだったが、一気に顔が青ざめる。
うな  「え?どれ?」
タヒチ 「あああああの紫のヤツ…」
うな  「おー、こえーなー。」
かるび 「食べられますか?」
タヒチ 「のんきなこと言ってる場合か!
     …やっぱり恐くなってきた…」
2人は後込みするタヒチを睨み付ける。
かぎ魔王と戦う方がまだましな程の恐怖感が伝わる。
タヒチ 「わ、分かってるよ。あの、えーと、すいか帽?を助けるんだろ!」
そして3人を乗せた船は陸まであと数十メートルというところまで来た。
かぎ魔王「どうする?」
かげ魔王「どうせ変わらん。殺せばいい。お前が行け。」
かぎ魔王「私はあいつらに恨みはない。」
かげ魔王「何故だ?お前も奴らに殺されるのだぞ?」
かぎ魔王「未来で強い相手と一戦交えられるなら私は構わん。
     結果がどうであれな。
     それに、これはお前の問題だろう?」

2人が話している間に3人は船から下りて、
注意深くかぎ魔王との距離を取りながら横歩きですいか帽に近付く。
うな  「すいか帽!こっちに来い!」
すいか帽は2人の魔王から目を離さずにそちらに向かう。
かげ魔王「させるか!」
すると、かげ魔王はとんでもない速さですいか帽目掛けて飛んで来た!
すいか帽は素早く剣を抜き、飛んでくるかげ魔王をかわして振り返りざまに剣を振る。
が、かげ魔王は同じく振り返りざまに、片手で剣を止める。
すいか帽の剣とかげ魔王の手が軋み合う。
すいか帽がよく見ると、剣が当たっているのは爪だった。
それも人の爪ではない。獣の爪だ。

かげ魔王「そう言えば自己紹介がまだだったな。
     俺の名はかげ魔王。世界の闇を統べる王だ。
     世界7魔王の中でも最強の男だ。」
タヒチ 「えぇ!?お、お前が!?」
タヒチだけが一気に青ざめる。足の震えが遠くからでも分かる。
かるび 「どういう意味ですか?」
タヒチ 「だからその、つまり、えと、…せ、世界最強って事…だろ…?」
かげ魔王「ご名答。俺が世界最強の男だ。
     この世界にいる誰よりも遙かに強い。」
そう言うとかげ魔王はすいか帽の剣を払い上げる。
かげ魔王「今からこいつを殺すところだ!」
うな  「そうはさせない!!炎の息!」
うなの炎がかげ魔王に向かう。
するとかげ魔王は目にも止まらぬ速さですいか帽の後ろに回り込み、
すいか帽を羽交い締めにして盾にした。
かげ魔王「焼きすいかってのはどんな味だぁ?」
タヒチ 「あぁ!危ない!」
かるび 「纏水!!」
間一髪、すいか帽の目の前の地面から水が壁のように噴き出し、炎を完全に防いだ。
タヒチ 「すいか帽!早く逃げるんだ!」
しかしかげ魔王の力は予想以上に強く、動くに動けない。
かげ魔王「さて、久しぶりに人間の血を吸うとするか!!」
かげ魔王は口を開けて言う。
歯と舌が見えるが、それも人間のものには見えない。
鋭く尖った、獣のような歯と舌。
そして、すいか帽の首元に噛みつき、血を吸い始める。
すいか帽は痛みに力を奪われつつも、かげ魔王の足を勢いよく踏みつけた。
かげ魔王「いてぇっ!!」
かげ魔王は吸いかけの血を吹き出しながら後ずさる。
すいか帽の方は、痛みは走るものの、幸い血はほとんど吸われていない。
すいか帽は3人の元に走る。

かげ魔王「おい、かぎ魔王!あいつらをクローズしてしまえ!」
かぎ魔王「…かげ魔王、人に物を頼むときくらい誠意を見せろよ」
かげ魔王「あぁ?俺より弱いお前がそんなこと言えるのか?」
2人とも睨み合うが、かぎ魔王が一拍置いて話し始める。
かぎ魔王「お前には私のクローズが効かないとでも?」
かげ魔王「!!?」
かげ魔王の顔から笑みが消えた。
かぎ魔王「私の技は全ての生物を無に封じ込める。
     もちろん、お前も例外ではない。」
かげ魔王「まさか、お前、そんなことしないだろ?
     報酬はちゃんとやるんだぞ?」
かげ魔王は半信半疑で顔を引きつらせながら言う。
かぎ魔王「報酬などで人間は操れても、この私は操れない」
かげ魔王「…チッ、仕方ない…
     お前は生かしておくつもりだったんだが…
     もう生かしておく必要はないな。」
4人が状況を理解できない内に、2人は仲間割れして戦闘態勢に入る。
辺りを照らす月の光が次第に青くなっていく。

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