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第28話 青い宝珠

3人はオーボンの地上に出たのだが、やはり瓦礫の山のままだ。
2つの閉じられた石碑も健在だ。
既に日が昇っている。小鳥の囀りが清々しい。
うな 「さて、どうやって過去から帰るんだ?」
かるび「向こうに城があります。」
かるびが指さす方向、さほど遠くない場所に小さい城が見えた。
うな 「よし、あそこに行けば何か分かるかな?」
最も、彼らが未来から来たことすら信じてもらえないのが現実のはずなのだが…


この小さな城には、兵士はあまり見かけない。
まさか個人の趣味で城を建てているのではないかと心配になる。
そして、3人は兵士に導かれ、そこの王の前まで来た。
王様 「よくぞ来た。お前達、私に何の用があるのかね?」
うな 「実はな、」
王様 「…お、おおぉ!!何という事じゃ!!」
うな 「な、何だ!?」
突然叫びだした王様に、3人とも思わず引いてしまう。
王様 「お、お前達、何と素晴らしいハンバーグを持っておるのじゃ!!
    こんな素晴らしいハンバーグは見たことがないぃ!!」
うな 「……俺?」
兵士 「王様は美味しいハンバーグに目がないのだ。
    毎日毎日大量のハンバーグを食べている。
    厨房のコック達は大忙しだ。」
隣にいた兵士が呆れながら話す。
なるほど、兵士の少なさは料理人の多さのせいだったのだ。
王様 「そうなんじゃ!このハンバーグを作ったのは誰じゃ?」
かるび「私が作りました。私の自信作です。」
王様 「このハンバーグを譲ってはくれないか?
    もちろん礼はする。」
あまりの興奮で鼻息が荒くなっている。
かるび「是非美味しく頂いて下さい。」
うな 「…ちょっと待てよ、俺の意見も聞けよ」
かるび「ハンバーグとして生を受け、
    美味しく食べられることは最高の幸せ。」
もちろんこんな事で納得するうなではないが、
2人の会話が途絶えないので口出ししても全く聞こえていない。

王様 「さて、こんなに素晴らしいハンバーグを頂いたのだから、
    礼もこれに相応するもので無ければならんな。」
そう言うと、王様は兵士に何かを持ってこさせた。
布に乗せられたそれは、青く輝く大きな宝石のような物だった。
王様 「これは「青い宝珠」と言ってな、
    未来や過去に自由に行き来できる代物だそうじゃ。
    私は怖くて使えなかったが、あなた方なら有意義に使えるだろう。」
かるび「これで元の時代に戻れますね。」
王様 「さて、私はこれからお食事タイムなので、これでお別れじゃな。」
かるび「お腹いっぱい食べて下さい。」
うな 「…嫌がらせか?」
そして、2人はうなを残して部屋から出て、城の出口へと向かう。

その途中、すいか帽はタヒチのこと、かげ魔王のこと、すいか様のことなど、
今までのことを思い出していた。
思い出せば思い出すほど、自分が何者なのかが分からなくなってくる。
と、横を歩いていたかるびが立ち止まる。
不思議に思ったすいか帽は振り返る。
かるび「焼き肉の食材を集める旅ももうすぐ終わりです…。
    でも…私は…」
かるびは前髪で顔を隠すように少し下を向き、言葉を詰まらせる。

その頃…
王様 「さて…ソースやチーズやケチャップや醤油をかける前に、
    ハンバーグ本来の味を味わうのが通の食べ方なのじゃ…
    さて、味の程は…」
そう言うと、王様はケチャップやらソースやらをテーブルに置いたままうなにかじり付く。
うな 「いててっ!! 俺をかじるな!!」
王様 「なんとぉ!!!? ヘァンバァーグが喋ったぁ!!!?」
先程の会話で気付かなかったのだろうか、王様は派手に驚いた。
あまりの驚きで、舌が口の動きに追いついていない。
うな 「あぁ、喋っちゃ悪いか!?
    俺は誰にも食べられたりしないからな!!」
そう言うとうなは扉を蹴破りすいか帽達の元へと走った。
後ろからは絶えず奇声が聞こえる。
「ぎゃぁーーーー!!!ハンバーグが逃げたぁーーーー!!!」

すいか帽とかるびの後ろから大きな足音と、それよりも大きな奇声が聞こえて、
かるびの話どころでは無くなった。
うなが2人に追いついたのだ。
うな 「早いとこ逃げるぞ!その宝珠で戻るんだ!!」
3人は青い宝珠に手を当てて、元の時代の元の場所を思い浮かべる。
すると、3人の体は空色の温かい光に包まれた。
急に視界が真っ白になり、体が軽くなる。


うな 「…あれ?ここはどこだ?」
3人が目を開けると、そこは古びた小さな部屋だった。
上を見上げると、天井が高く、一ヶ所だけ壁が少しずれている。
そして部屋の中心を見ると、大きな台座のような物がある。
その台座は中心が仄かに光っている。
うな 「もしかして、ここに落ちて過去に…?」
まさにそのようだ。
上に見える壁が回転してこの部屋に落ち、この台座の上に落ちた。
さらに永遠に落ちているような錯覚に陥った上、過去の世界へと送られたのだ。
この台座が過去の世界との境目なのだった。

3人はそれぞれ考え事をしながらその建物を出る。
かるび「……あ…」
うな 「どうした?」
かるびが見つめる先にあるのは、あの看板。
そう、「焼き肉屋」の看板だ。
うな 「戻ってきたんだよな…」
3人は少しだけ失われていた時間の感覚が戻ってくるような気がした。
かるび「どこに行けば焼き肉が食べられるのですか?」
うな 「あ、そうだったな。
    ここから西に行けばそれっぽい所があった気がする。
    さっさとこの旅も終わりにしようぜ。」
かるび「……」
うな 「でもその前に近くの宿で一休みだな。」
3人は7つの輝きの辿り着くべき場所に向かっていった…。

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