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第29話 神竜の祠

ある暗い洞窟に、一人の男性が入ってきた。
どうやら神父のようだ。帽子に白い十字架が描かれている。
両手に何か物を抱えている。
神父 「今日もここに参拝するのです。
    誰もいないからといって独り言も良くないのですが。」
あまりに人気のない洞窟に一人では独り言が出るのも無理ないかもしれない。
神父 「それにしても…こんなお供え物、置いてても腐るだけなんじゃ…?」
誰もいないのをいいことに、彼は神父にあるまじき発言を繰り返す。
そう言っている内に、彼は最深部の泉までたどり着いた。
神父 「…やっぱり変ですよね。
    他の人たちもここにお供えしてるはずなのに何もない…
    神竜様の言い伝えは本当なんでしょうか…?
    でも、そうだとしても、竜の玉を7つも集めるなんて誰ができましょうか?」
そして彼はお供え物を丁寧に並べ、独り言を止めぬまま入口へと歩く。
だが、彼の独り言が今始めて阻止される。

うな 「やけに明るい洞窟だなー。」
かるび「焼き肉…焼き肉…焼き
うな 「うるせーよ。」
そしてその3人と神父は道の途中で出会した。
神父 「おやおや、こんな所に人とは珍しいですね。
    今日はお参りですか?」
うな 「えーと…一応聞くが、ここはどこなんだ?」
神父 「ここは「神竜の祠」です。
    神竜様は竜の玉を世界中に隠し、
    それを全て集めた者の願いを叶えるという言い伝えで…」
うな 「やっぱりここだな。竜の玉も揃ってるし。」
神父 「…ええ!?
    竜の玉を7つ集めたんですか!?」
うな 「え?あぁ、うん。一個小さい気もするけど。」
神父 「まさか揃える人がいるとは…
    ところで、何をお願いするんですか?
    …え?すいかが食べたい?
    ……何でも願いがかなうのに…?」
うな 「何で?何でも願いを叶えてくれるんだからいいんじゃないか?
    とにかく俺達は奥に行くからな。」
3人は奥の泉の方向へと歩いていった。
神父 「…そうだ、神竜様が姿を現すかもしれない…」
彼は好奇心の赴くままに3人の後をつけて行った。


うな 「そして一番奥まで来た訳だが…」
彼の言う通り、3人は一番奥の泉まで来た。
広い泉の先は岩の壁なのでこれ以上は進めないことが分かる。
うな 「竜の玉を7つ集めたぞ。願いを叶えてくれよ。」
3人は竜の玉を掲げる。
すると、泉の周りが白い煙に包まれた。
煙の隙間から見えたのは、竜だった。
緑色のその竜、他の竜よりも小さい方だろうか。
竜  「俺を呼んだか?」
うな 「お前が神竜か?願いを叶えてくれよ。」
竜  「いかにも俺が神竜だけどな。願いって何だ?
    なになに、すいかが食べたい?
    ふーん。」
うな 「あ、俺もすいか欲しいぞ。」
神竜 「お前もすいかか。ふーん。」
かるび「私は焼き肉が食べたいです」
神竜 「お前は焼き肉ねぇ。ふーん。」
神竜は3人の願いをあっさり流してしまう。
神竜 「お前らの望みは聞いてやったぞ。
    聞いただけだけどな。」
うな 「おいおい、話が違うじゃねーか!
    竜の玉を集めたんだからすいかくれよ。」
神竜 「一つ小さいのが混ざってるじゃねーか。
    それは「竜の小玉」だ。」
そう、あぷるの手紙に添えられていた竜の玉である。
うな 「小玉じゃ駄目なのか?」
神竜 「小玉7つで竜の玉1つ分だ。
    望みを叶えて欲しかったらそれをあと6つ集めるんだな。」
この話には3人とも唖然とした。
うな 「聞いてねーよそんな話!」
神竜 「あとな、せっかく願いが叶うのに、
    すいかとか焼き肉とか、そんなみみっちい事言うなよ。
    食い物くらい自分の足で探せよ。その方が絶対いいって。
    そうだ、竜の小玉も全部集めたら俺が宇宙旅行に連れていってやるよ。
    じゃ、そう言うことで。」
神竜は話し終えると煙と共に消えていった。


耳が痛いほどの沈黙がその場を支配する。
うな 「聞いてないよ…」
かるび「もう…焼き肉は食べられないのですか…?」
彼女はぼろぼろと涙を流しながら呟く。
うな 「あの竜、どこに行ったのかな?
    この泉の中に入ったのかな?」
かるび「私は牛肉が手に入らないなら竜肉で我慢します。
    泉の中を探しましょう」
うな 「でもこの泉、結構深そうだな。
    言っとくけど、俺は泳げないからな、潜らないぞ。
    こんな体で入ったら……」
うなは今、ハンバーグなのだ。
ハンバーグが水に浸かって無事でいられる保証はまず無いだろう。

少しの間沈黙が続いたが、やはりかるびがそれを破る。
かるび「泉の水を飲み干しましょう」
うな 「飲めるかいっ!!」
洞窟にうなの叫び声が響き渡る。
かるび「私は小さい頃、善福寺池の水を飲み干したことがあります。」
うな 「そりゃまたえらくマイナーな池を飲んだなぁ…」
…2人はすぐに、彼女ならできると確信した。
うな 「よし行けっ!!」
うながそう叫んだと同時に、再び煙と共に神竜が現れた。叫びながら。
神竜 「飲み干すなっ!!!」
うな 「あ、出てきた」
神竜 「言っただろ、小玉が混じってるから願いは叶えられないんだって!!
    分かったらとっとと帰れ!!」
うな 「何かくれよ〜。
    俺達が手ぶらで帰れるわけ無いだろ〜。」
神竜 「お前ら喧嘩売ってるのか!?
    いいかげんにしろ!!」
神竜は額に筋を浮かべ、唾を飛ばしながら叫ぶ。
かるび「私は竜肉で我慢します。いただきます。」
神竜 「食べるな!!
    食われる前にこっちがお前らを食ってやる!」
かるびの余計な一言で戦いが始まってしまった…

その一部始終を見ていた神父は、またもあらぬ事を考えていた。
神父 「神竜様の伝説は本当だったんだ…
    …そうだ、町の人達に見せてみようか…」
神竜とすいか帽達とのやりとりはほとんど聞いていなかったようだ。
神父は足音を立てないように祠を後にした。
神父 「神竜の祠の伝説は真実…神竜様は実在する…」
町の人達へのスピーチの練習をしながらだが。

神竜  「くらえ!乱4撃!」
神竜の翼が弧を描いて飛んでくる。
かるび 「加護!!」
かるびの放った光が3人を包む。
そして、神竜の攻撃は全て外れてしまう。
神竜  「これならどうだ、灼熱フレア!!」
神竜が叫ぶと地面に大きな模様が現れる。
巨大な円の中に奇妙な模様が無数にある。
うな  「やばい、泉に飛び込め!!」
3人はその円陣から炎が吹き出す直前に泉に飛び込む。
神竜  「バカめ、水中戦ならこっちの方が有利だ!!乱4撃!!」
水中を見ると神竜が猛スピードで迫ってくるのが見えた。
だが、先程の加護の光に当たった途端に軌道を歪められ、またしても全て外してしまう。
神竜  「何だこいつら…、強い…?」
うな  「当たり前だ!次はこっちから行くぞ!」
神竜  「ヘッ、水中戦で俺に勝てる訳無いだろ?」
うな  「よし、じゃあ泉から上がるか。」
神竜  「させるかっ!!」
神竜が湖底から上昇してくる。
それより先に3人は泉から上がる。
かるび 「凍結符!!」
すいか帽「氷斬破!!」
神竜  「わっ、や、やめろ!!」
札から出た氷柱と剣から出た冷気が同時に泉に触れた瞬間、
泉の水が冷たい音を立てて完全に凍り付く。
うな  「へっ、俺達を怒らせた罰だ。」
かるび 「これなら腐りやすい竜肉も長く保ちますね。」
3人は暫く濡れた体を乾かしながら泉を眺めていた。

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