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第31話 未知の惑星

すいか帽は、まだ定かではない意識の中、その耳に確かに聞き取った。
小鳥の囀り、小川のせせらぎ、そして…
?? 「き、急に人が!?」
うな 「…あれ?ここはどこだ?」
かるび「竜肉はどこですか?」
どうやらどこか別の所に飛ばされてしまったようだ。
すぐ近くに、海に流れ込む川が見える。
遠くの山の方にはぼんやりと城が見える。
そして正面には白い服を着た少年が見える。
?? 「僕は見習いパン職人のロコっていうんだけど、」
うな 「なぁ、ここはどこだ?」
ロコ 「そんなことより聞いてくれよ。
    この城は世界七魔王の一人「さる魔王」の住む城なんだ。
    実は、僕の親父がさる魔王に捕まってしまったんだ。
    でも、さる魔王は凄く強くて誰も歯が立たなくて、」
ロコはうなの話も聞かずに話し続ける。
うな 「で、俺達にどうしろと?」
ロコ 「親父は世界一のパン職人なんだ。
    さる魔王は、美味しいパンを独り占めするために、
    親父に無理矢理パンを作らせているんだ。
    君たち強そうだし、さる魔王を倒して親父を助け出してくれないかな?」
うな 「世界七魔王の一人なんだろ?
    そりゃやべーだろ。」
3人はかぎ魔王やかげ魔王の強さを目の当たりにしたのでよく分かる。
あの時以来、できれば関わりたくないと願っていた。
ロコ 「今までに何人もの旅人がここに入っていったけど、
    誰も出てこなかったね。ははは。
    入るのも入らないのも君たちの自由だしね。
    でももし入るのなら、親父のこと忘れないでって事で。
    暇があるときでいいけど、親父を助けて欲しいんだ。」
あやふやな言葉をかけられて、なんと答えていいか分からない。
うな 「お前の親父のことはどうでもいいんだけど。」
かるび「私は焼き肉が食べたいのですが。」
ロコ 「城の中はさるでいっぱいだ。
    さる食べ放題だよ。」
うな 「さるなんか食べねーよ。」
だが案の定、かるびの目は太陽よりも輝いた。
かるび「行きます!!」
うな 「行くんかい!!」
ロコ 「さる魔王は強いから気をつけてくれよ。
    あと、親父のこと絶対に忘れないでくれよ。」
うな 「分かった分かった。
    かるび!先に行くなよ!」
3人は城に向かう山道を登っていった…。


3人は長い山道を歩いていったが、遠くから妙な鳴き声が聞こえてくる。
鳥にもコウモリにも似たこの鳴き声。
その正体が分かったのは、目の前にあるものが現れてからだった。
…巨大な猿である。
さる 「ようこそ、さるの惑星へ。」
しかも喋った。
かるび「さるの惑星?」
さる 「そうです、ここはさるの支配する惑星。
    今日は宇宙船の不時着ですか?」
人間より少し大きいほどの猿だった。
なにやら訳の分からないことを話している。
うな 「…神竜の言ってた「宇宙旅行」ってこれか?」
さる 「ここに来る人達はみんな宇宙船でこの星に不時着するんですけどね。
    とりあえず、私がこの惑星を案内しましょう。」
かるび「さるの惑星…じゅるる…」
うな 「さるは食べるな。」
3人はさるの言う通り、とりあえずついて行った。

ここは思った通り、右も左も猿だらけ。
かるびはよだれを抑えるのが精一杯のようだ。
2人にはその心理はほとんど理解できない。
さる 「さぁ、こちらをご覧下さい!」
さるが左手を掲げた方向にあるのは、たいまつを持った人間のような大きな銅像。
どうやらそれほど広くない川の中に立っているようだ。
下から見上げれば、その高く掲げたたいまつが日の光に溶けていく。
うな 「何だこれ?」
かるび「食べられますか?」
何故か案内の猿は突然慌てだした。
さる 「ちょ、ちょっと皆さん!何言ってるんですか!?
    これは「自由の女神」に決まってるじゃないですか!
    これを見るとほとんどの方は驚かれるんですけどね…
    「ここは地球だったのか!!」って。」
うな 「ふーん。」
だが、案内の猿はただ事では無いかのように慌て続ける。
次にとんでもない展開が待ち受けようとは。
さる 「あぁ、もうだめだ。あなた達もうおしまいだ…」
うな 「何だ?俺達何か悪い事したか?」
さる 「あなた達!!
    自由の女神を見ても驚かなかった!!」
うな 「…だから何なんだよ。」
さる 「自由の女神を見たら驚かないと襲われるんですよ。」
うな 「誰に?」
さる 「自由の女神に!!」
案内の猿が叫んだ瞬間、女神像の顔が歪む。
女神 「キシャーッ!!!」
そして、こちらが驚いている間に手に持ったたいまつを振り下ろしてくる。
うな 「マジでっ!!?」
3人はほぼ反射的に避ける。
うな 「ああもう、何でもっと早く言わなかったんだ!!
    ……ぁ」
見れば、あの案内の猿は既に遠くの物影に隠れてこちらを見ていた。
うな  「あ…あの野郎…!」
かるび 「うなさん!」
うなはとっさに振り向いたがもう遅い。
女神像の持っていた大きな銅のたいまつがうなに直撃した。
うなはかなり遠くまで払い飛ばされたが、意識はしっかりあるようだ。
うな  「ちくしょう…
     すいか帽!!叩き斬ってやれ!!」
すいか帽は剣を構える。
そして、女神像に向かい川を飛び越えるように飛んでいき、空中で女神像に剣を振る。
女神像の体には大きくひびが入る。
すいか帽は川の反対岸で着地し、そのまま勢い良く地面を反対側に蹴った。
すいか帽「下がり斬!!」
下がりざまに女神像にもう一度剣を振る。
2回の剣撃を受けた女神像は、音を立てて真っ二つになり、川の中に崩れ落ちた。

さる 「じゃ、じゃあ次行きますね。」
うな 「自由の女神ってこえーな。
    何か帰りたくなってきた…」
かるび「すいか帽さん…」
すいか帽は彼女の方を向いたのだが、思わず青ざめた。
かるび「さるがいっぱいいます…じゅるる…」
かるびの目の色が全く違う。
すいか帽の背中が濡れたのは冷や汗だろうか。
3人の不安や期待を後目に、案内の猿は奥へと進んでいく…。

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