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第35話 時空の果てへ

神父 「うーん…何処にいるんでしょうか、ミザルは。」
すいか帽と神父は広大なサル時空をかなり歩いたはずだ。
だが、ミザルが何処にいるか見当が全くつかない。
しかし、2人の不安もすぐに晴れた。
遠くの霧の中に水色の巨体が浮かび上がったのだ。
神父 「あれがミザルです!!さぁ、早速倒しましょう!!」
2人はその方向に行こうとしたが、そこまで床は続いていない。
慌てて少し後ずさる。
どうやらもう一歩きしなければたどり着けないようだ。


うな「全く、さるばっかりだなここは。」
うなは猿の多さにさすがに呆れた。
何匹下の湖に落としたかなど数えられない。
うな「出口は何処なんだよ…
   あ〜あ、うさぎに戻りてぇ…」
うさぎに戻れば出られるわけでもないのに、急にそのことを思い出した。
危機に直面した者ほど高望みするものなのだろうか。
うな「はぁ〜。」
うなは歩き疲れてしゃがみ込んだ。
だが、それが運の尽き。
さる 「ウキーッ!!」
後ろに潜んでいた猿が襲いかかってきたのだ。
うなは応戦しようと立ち上がるがバランスを崩し、下へ下へ真っ逆様…
うな「うわぁーーーー!!!」
だが、うなは運良く浮かんでいた大きな猿の上に着地できた。
水に浸からなくて済んだのだから、溺れたり凍えたりする心配はなくなった。
だが、これで脱出の希望は完全に閉ざされた。
うな「くそ…俺は一生をここで過ごすのか…?
   …いやまてよ、この時空そのものをぶっ壊せばいいんじゃ…」
気付いたときには既に遅し。
うなは猿の筏に乗ってサル時空の下を流れる湖を漂う他無かった。


神父 「やっとミザルに会えましたね…」
ミザルはアイマスクをしたまま広い床のあるところに立っている。
暫くすると、こちらに気付いたようだ。
ミザル「そこに誰かいるのですか?名前を名乗りなさい。
    …え?すいかが食べたい?
    すいかが食べたいさん、初めまして。」
神父はこの会話を聞いただけでこの先の展開が面白くなってきた。
そう、全ての返答をすいか帽に任せたのだ。
不謹慎だが、神父にとっては斬新で面白い。
こんな時にこんな事ができるのも彼くらいだろう。
ミザル「ところで今日はどんなご用件ですか?
    え?すいかが食べたい?
    すいかが食べたいんですか。
    あいにくですがここにはすいかはないですねぇ。
    ところで、今日の天気はどうですか?
    アイマスクしているから、天気が分かんないんですよね。」
ならばアイマスクを外せばいい話。
2人ともそう思っただろう。
ミザル「え?すいかが食べたい?
    すいかが食べたくなる天気って事ですか?」
少なくとも、そのような天気は無い。
そもそも、ここの空間で雨が降ったり日が射したりするわけがない。
もちろん2人ともそのことは承知だ。
ミザルは目の前の光景を知りたがる割にアイマスクは外そうとしない。
ミザル「すいかが食べたくなる天気…?
    どんな天気なんですか?
    気になる〜気になる〜気になる〜気になる〜…
    アイマスク外したい〜!
    どんな天気か見てみたい〜!!」
外せばいいものを、と心で叫んだ。
と、やっと神父が話に入る。
神父 「ミザルさん、あなたがこのサル時空を作ったんですか?」
ミザルは、そこにいるのが一人ではないことに初めて気が付いた。
ミザル「そうなんですよ。私が作りだした空間です。
    凄いですよね?
    どうやら今ここはすいかが食べたくなる天気らしいですが、
    私はよく分かりませんねぇ。」
神父 「どうやったらここから出られるかは知っていますよね?」
ミザル「あなた達がこの空間から出たいと言うのなら、私が成敗します!!」
神父 「分かっていますよ。あなたを倒せばいいんですよね。」
すいか帽は静かに剣を構えた。


かるび「すいか帽さ〜ん…」
かるびはサル時空をとぼとぼと歩いていた。
彼女の呼び声は虚しく消えていく。
一度も猿を見かけないのは、かるびを見た途端に逃げるからだろう。
だが、かるびはそれどころではない。
一人でこの静かな空間にいると、さすがに寂しさで涙が込み上げて来る。
だが、こんなところで泣くまいと何度も目をこする。
目をこすると、僅かだが周りがよく見渡せるようになった気がした。
かるび「あ…あれは…?」
遠くの方に何かが見える…いや、何も無い。
何も無いのが見えるのだ。
かるびは少しそこに近付いてみるが、やはり何もない。
本当にそこだけポッカリと何もないのである。
かるび「ひょっとして…」
下を覗いてみると、そこから先には水も流れていないようだ。
かるびは閃いた。
かるび「凍結符!」
札から出た氷柱が虚無の空間に向かう。
すると、何もないはずの空間に氷がへばりつく。
そう、ここはサル時空の果てだったのだ。
これに気付けばこっちのもの。
かるび「鎌鼬符!」
かるびが札から斬撃を繰り出すと、氷と密着している壁にもひびが入る。
そして、その空間に大きな穴が開いた。
かるび「やったぁ!これで外に……?」
その時、突然その穴に向かって猛烈な突風が吹き込んだ。
かるび「きゃぁーーーー!!!」
かるびはその風力に耐えられず、穴に吸い込まれてしまった…

かるび「……!」
気が付くと、かるびがいたのは元の場所だった。
そしてそこには見渡す限りの…
かるび「さ、さる…じゅるるる…」
辺り一帯に涎を啜る音、続いて涎の滴る音が響き渡る…。

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