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第39話 言葉にならない想い

 焼き肉の食材を集める旅ももうすぐ終わりです…。
 でも…私は…

あの時言えなかった事…
どうして言えなかったの…
あの時にうなさんがもっと早く来ていても言えたはずだった。
どうしてなの?
言いたいことはただ1つだった。
「ずっと一緒に旅がしたい」
そう、ただそれだけだった…なのに…
彼のことを思い浮かべただけで胸が苦しくなって…
確かに私は焼き肉が食べたい。
でも、その想いさえも上回る…
この気持ちは何?


2人は長い廊下を歩いていた。
かるびは先程からずっと無言でうつむいたままだ。
さすがにすいか帽は少し心配になってくる。
そんな時に2人の前に現れたのは…
高くそびえる自由の女神像。
前回と同じようにこちらを横目で監視している。
あの時はうなの知恵で戦闘を避けられたが今回は彼はいない。
そして、今頼りになるべきはかるびだけだったのだが…
かるび 「自由の女神です。…さすがにこれは食べられません。
     でも、試してみる価値はありそうですね。」
いつも通りのボケっぷりにすいか帽の心配も吹き飛んだ。
大袈裟にかるびの前に出て手と首を振る。
と、その時、すいか帽の後ろで何かが光ったのに気付いた。
女神像 「女神レーザー!」
すいか帽が振り向いた瞬間、すいか帽の腕を白い光線がかすめる。
すいか帽は反射的に身をかわすが、腕には光線の焼き跡がくっきりと残った。
すいか帽「っ!!」
かるび 「すいか帽さん!!!」
女神像 「キシャーッ!!」
女神像は、今度はかるびに向かってたいまつを振り下ろしてくる。
だが、それよりも早くかるびは札を出して呪文を唱える。
彼女の目は怒りに燃えていた。
かるび 「鎌鼬符!!」
その札から出た三日月の斬撃が、女神像を輪切りで切り刻む。
そして、女神像は下手なダルマ落としのように崩れていった。

女神像が崩れたのを見てほっとした瞬間、すいか帽の腕に痛みが走る。
すいか帽はその傷を押さえるに押さえられずにその場にしゃがみ込む。
かるび 「すいか帽さん!……恩恵!」
かるびはすいか帽に駆け寄り神官魔法で彼の傷を癒す。
白い光に包まれ腕の皮まで元通りに、いや、元より奇麗に治っていく。
かるび 「……なさい……たしの…せいで…」
無表情のまま声にならない声で呟くかるびを慰めようと思ったすいか帽だったが言葉が出ない。
すいか帽は彼女の肩を軽く叩いて先へ進む。
かるびはまたうつむいたまま彼についていく。


いつも隠していたこの想い。
これを抑えるのはつらい。
でもこれを伝えるのもつらい。
この気持ちを素直な気持ちで伝えられたら…
いつ伝えられる日が来るの?
そもそも、本当に苦しんでいるの?
私は、このままでいいのかしら…


目を開け、うなは自分の存在に気付いた。
自分の目は、未だに目の前で揺れる灯りを基準に焦点を定めている。
うな  「う〜ん…ここはどこだ?」
猿   「気付いたウキーッ!」
うなが目を開けた途端、目の前に猿の顔が現れた。
うなは驚いて飛び起きる。
うな  「うわっ!!
     驚かせるんじゃねーよ!!」
強引に立ち上がったはいいが、まだ頭がクラクラする。
その時、奥の通路からジャラジャラと音が聞こえ、ギラギラと光が射し込む。
キカザル「オーホッホッ!目を覚ましたザマスね?
     ここは食料庫ザマス。
     アンタはさる魔王様の夕飯になるザマス!
     それまでここでバナナ達と一緒に待ってるザマス。」
キカザルは自分の爪にべっとりと付けたマニキュアを眺めながら他人事のように話す。
うな  「夕飯!? ちょっと待てよ!!
     俺は食べられるなんてごめんだぞ!!」
キカザル「ああ!!マニキュアがずれてるザマス!!
     肌が荒れてしまうザマス!!早く直さないと!!
     アンタ達、化粧室まで護衛するザマス!!」
そう言うとキカザルはそこにいた猿達を引き連れて食料庫を後にした。
うなは納得のいかない表情のまま硬直した。
うな  「そうだった…
     あいつ、話聞かないんだよな…
     って、そんな事考えてる暇は無い!
     どこかに出口は…」
辺りを見回すと、部屋の一角に1つだけ影が見えた。
この位置からは見えない部屋の入口だ。
うな  「誰かいるのか?」
それが何か分かったのは近付いてみてからだった。
その部屋には大量のバナナが無造作に積み重ねられていた。
うな  「…ん?
     そう言えば、バナナ達と一緒に待ってろって…
     はぁ…俺はさるの胃袋でバナナと混ざるのか…」
どこからか声が聞こえる。
??? 「君も大変だね。
     さる魔王に食べられる運命だったなんて。」
うな  「!! 誰だ!?」
??? 「ここだよ、ここ。」
うなはふと下を見るが、そこにあるのはバナナだけ。
うな  「まさか…バナナか?」
バナナ 「そう、その通りだよ。」
うな  「バナナが喋ってる…」
これまでいろいろなものが喋っているのを見てきたうなにしてみれば、
驚かされるどころか疲れが増すだけだった。
バナナ 「君もさる魔王に食べられる運命ならお互い様だね。
     夕飯までここでゆっくりしてるといいよ。」
うな  「運命?俺はさるに食べられるなんて絶対嫌だぞ。
     出口がどこにあるのか教えてくれよ。」
バナナ 「全てのものは運命から逃れることはできないんだ。
     奇跡でも起きない限り、抵抗は無駄なんだ。
     その奇跡も運命の内ではあるんだけどね。
     出口は君が探してごらんよ。」
うな  「…分かったから、話を難しくするなよ。」
うなは広い食料庫をうろうろと歩き回り、出口を探した。
うな  「運命、か…。
     あいつら…今頃どうしてるかな…
     無事なんだろうな…」
彼の脳裏に浮かんだ2人は、笑顔だけを見せている。

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