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第42話 その名を叫べば

すいか帽「すいか様!!!」
その叫び声は決して力の入った声ではなかったが、部屋中に響き渡った。
ほどなくして、すいか帽達の前に淡い緑色の光の柱が現れた。
そして、その光の中に降り立ったのは見覚えのある姿。
??? 「呼んでくれてありがとう、西瓜太郎クン。」
さる魔王「…誰だ貴様は?」
??? 「僕はすいか様。西瓜太郎クンの守り神…」
さる魔王「守り神だと?」
うな  「すいか様って…あの時の…?」
1度しか姿を見ていない2人の頭にも、以前の彼の勇姿が浮かび上がる。
すいか様「どうやらさる魔王の弱点を知らないようだね。
     確かにこいつは弱点とする物を持たない者に対しては無敵。
     でも、弱点を知り、それを持つ者に対しては無力。
     そして、僕はさる魔王の弱点を持っている…」
さる魔王「ま…まさか…」
うな  「弱点があるのか!?」
かるび 「どうすればいいんですか?」
すいか様はゆっくりと左手を横に向けて手を開く。
すると、そこに目映い光の柱と共に一本の剣が現れ、彼はそれを固く握る。
その不思議な形をした真っ白に輝く剣はすいか様が使うには少し長いように見える。
すいか様「これは、さる魔王…キミの弱点である白猿の毛を使って作られた剣…」
さる魔王「なにっ!!?」
すいか様「今は伝説となった白猿だけど、さっき城の前にいたのは何でだろうね。
     おかげでこの剣が手に入ったんだよね。本当に運が良かったよ。」
すいか様は顔にやや不適な笑みを浮かべている。
さる魔王「城の前に…?何故…」
先程からさる魔王の表情がどんどん険しくなっている。
無敵と言われた彼が死の恐怖を感じるほどの逸品なのだろうか。
すいか様「これさえあれば、動けないキミは圧倒的に不利になるんだよね。
     西瓜太郎クンに呼ばれたからには、キミを倒させて貰うからね。」
さる魔王「クソが…そうはさせるか!!
     おさるインパクト!!」
さる魔王は再び右手から無数のさる玉を、すいか様に集中して放つ。
すいか様「無駄だよ…これだ!!」
すると、すいか様が前に突きだした右手から無数の西瓜が飛び出す。
さる魔王の放ったさる玉達に見事なまでに命中し、その体が貫かれていく。
その西瓜はさる魔王の体に当たったかと思うと、さる魔王の体はその西瓜の勢いで抉られていく。
さる魔王「ぐあぁぁーーっ!!!」
今まで無敵の身体のお陰で痛みすら感じたことの無かったさる魔王は、
今までに無い痛みに激しく悶え苦しむ。
さる魔王「この俺が…負けるわけが…」
一度の攻撃だったが、さる魔王の目は血走っている。
さる魔王「ぐぐぐ…灼熱フレア!!」
さる魔王の左手のキカザルの顔が歪み、すいか様の足元には巨大な魔法陣が現れる。
だが彼は高く飛び上がりその吹き上がる炎をかわし、そのままさる魔王に向かっていく。
すいか様「これで終わりだ!!」
そして手に持った白猿の剣を振り下ろし、さる魔王の頭にその剣を深く突き刺した。
さる魔王「ぐぁぁぁああ!!!」
すいか様が着地するより少し早く、
さる魔王は鎖に繋がれたままゆっくりと、だが大きく音を立ててその場に倒れ込んだ。
剣の刺さった場所からは止め処なく血が流れている。

3人はあまりの激戦に呆然と立ち尽くしている。
すいか様「西瓜太郎クン…今回も僕に助けられたね。
     もっと強くならないと、これから先大変かもね。
     実は、ここから北東に行った島にロイズの町があるんだ。」
その町の名前を聞いてすいか帽は真剣な表情になる。
すいか様「ここは猿の惑星。
     でもキミ達はちゃんと元と同じ星にいるからね。
     ロイズやオーボンに行くことだってできるんだよ。
     困ったことがあったらいつでもロイズに来てもいいからね。
     もっと困ったときは、どこにいても駆け付けるからね。」
そう言うとすいか様は上を向く。
すると、現れたときと同じような光の柱が降りてくる。
すいか様「…また会おうね、西瓜太郎クン…」
光の柱が彼を包むと、光が薄れるのと同じようにすいか様も消えていった。
3人はその様子をただ見守るだけだった。

…いや、2人だけだったようだ。
かるび「燃火符!!」
その狂喜に満ちた声に2人は驚いて後ろを振り向く。
すると、あのさる魔王の巨体がかるびによって焼かれている最中だった。
うな 「お前、もしかして食べるつもりか!?」
かるび「大きい猿が食べたいです…じゅるる…」
彼女の目は既に焦点が定まっていない。
うな 「かるび、落ち着け!!早まるな!!
    さる食べ過ぎるとさるになるぞ!」
嘘でもいいから止める口実が欲しかった。
うなは必死でかるびを羽交い締めにして押さえるが、
巨大な肉の塊を前にした彼女の力は予想以上のものになっていた。
だがその時、3人とも異変に気付いてぴたりと動きを止める。
さる魔王の頭、丁度白猿の剣の刺さっている辺りが仄かに紅い光を放ち始めたのだ。
炎の熱に反応して輝いている。
かるび「あれは…?」
うな 「もしや…よし行け、かるび!!」
うなが羽交い締めを解くとかるびは一目散にさる魔王に食らい付く。
そして数秒もすれば、骨などを残してほとんどたいらげた。
体型が、頬を除いて前後で全く変わっていないので恐怖すら感じる。
彼女は残骸の中から光り輝く物を拾い上げる。
かるび「これが光ってたんですか?」
それは拳よりも一回り小さい紅い玉だった。
うな 「あれ、どこかで見たような…
    すいか帽、荷物見せてみろ。」
すいか帽は言われるがまま荷物を見せた。
そこには紅く輝く玉が7つ入れてあったが、
その中の1つだけが先程見つけた物と同じ大きさだった。
うな 「思い出した、「竜の小玉」だ!
    神竜がこれを7つ集めれば西瓜をくれるって言ってたっけ。
    今2つだから、後5つか…。」
3人は光を放つのをやめた竜の小玉を眺めていたが、重大なことに気付く。
うな 「なぁ、何でこの城に入ったんだっけ?」
かるび「さるを食べに来ました。」
うな 「…そうか、ロコの親父を助けるんだっけ。あのパン職人。」
何故あの時自分をハンバーガーにした人間を助ける羽目になっているのか、
うなはまだ整理し切れていなかったのだが。
牢の並ぶ廊下に差し掛かると、聞き覚えのある声が聞こえる。
モコ 「おお、待っておったぞ!!
    さる魔王を倒したのか?」
かるび「全部食べてしまいました。」
モコ 「食べたのか!?
    …そんなことより、早く脱出しよう!!」
3人はその簡単な仕掛の牢を開け、モコと共に城を出た。
途中に猿は一匹も見なかった。
開かれた扉の向こう側は、目を開けられないほど輝いていた。

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