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第45話 リベンジ

ランプの光が辺りを赤く照らす。
50年前のこの時、彼らは同じようにランプに照らされて対峙していた。
その時と違うのは、戦いの理由を握っている者の違いだった。
かるびとアボカドの二人は構えての睨み合いを続ける。
最初に攻撃に出たのはアボカドだった。
アボカド「燃火符!」
その細い腕を前に出し、人差し指と中指を重ねる。
するとそこに空気や光が集まって固まり、1枚の札が形成される。
そしてその手を再びかるびに向けて突き出すと、札から紅く輝く炎が放たれる。
かるび 「鎌鼬符!」
かるびも同じように人差し指と中指を重ねながら横に手を振り、札が出来たときに前に突き出す。
彼女の札からは強風と斬撃が飛び出す。
炎は強風にあおられて力を失い、残った斬撃は尚もアボカドに向かう。
アボカド「凍結符!!」
次の札から繰り出されたのは氷柱。
その氷柱はアボカドの目の前の地面に根を下ろし、
天井に向かって突き出るように肥大し壁となる。
かるびが放った斬撃はいとも容易くその厚い氷に弾かれる。
短くも激しい戦闘は始まったばかりだというのに、両者の間に静寂な空気が流れ始める。
かるび 「くっ…」
アボカド「お前の陰陽術の腕、悪くはないようだな。
     もう少し続けてみろ。」
意に反して歯を食いしばるかるびに、アボカドは無表情のまま話す。
かるびはもう一度中指と人差し指を重ねて前に出す。
そして形成された札にさらに気を込める。
かるび 「凍結符!!」
札から飛び出た大きな氷柱は一直線にアボカドに向かっていく。
横で見ていたすいか帽とうなの目線は氷柱より早くアボカドに向かう。
アボカド「呪詛符!!」
かるび 「!!?」
冷たい声が響き渡り、アボカドの札にどす黒い色の紋様が現れる。
その魔法陣のような紋様は回転しながら実体化し札から飛び出す。
その紋様とぶつかり合った氷柱はいとも簡単に砕け散った。
尚も迫る紋様を、かるびはやっとの思いで地面を蹴って間一髪で避けた。
紋様が壁に当たったときの爆風に煽られながらも体勢を立て直してまた攻撃を繰り出す。
かるび 「鎌鼬符!!」
再び斬撃を繰り出すが、すぐにアボカドは打って出る。
アボカド「雷鳴符!!」
アボカドの指の前に現れた札は指から離れ、彼の数歩前に高く浮かぶ。
札から轟音が響いたかと思うと、眩い光と雷鳴と共に放電を始めた。
進んでいた斬撃は、皮肉なほど正確な稲妻に次々に貫かれて形を失った。
かるび 「……」
後には何も残らなかった。
アボカドは構えるのをやめて口を開く。
アボカド「私もお前も、前よりは上達しているようだな…。」
三人とも愕然としている。
見たことも聞いたこともない陰陽術を、アボカドは使いこなしていた。
ちなみに、字も読めないかるびが陰陽術でここまで戦えることはとっくの昔に驚き終わっている。
うな  「今の技はなんだったんだ…?」
アボカド「何、その女ならば容易く習得できる素質を持っている。
     どうだ、ここで一修行してみないか?」
彼は真っ直ぐかるびを見る。
彼女は負けた悔しさを抑えながらゆっくりと頷いた。
アボカド「ならば話は早い。説明しよう。」
かるび 「………。」

説明する、と言いながら説明を始めないアボカドに、三人は疑問を抱く。
その疑問を別の疑問に変えて質問する。
うな  「あれ?修行って…お前がやらせるのか?」
アボカド「気付いたか。本来、この山での修行を指導する者など居ない。
     ここに来て修行する者は独自に頂上を目指しながらの修行に明け暮れている。
     だが、お前達には修行の近道を教えてやろうと思ってな。」
彼は質問に満足げに答えているようにも見える。
かるび 「教えて下さい。」
雰囲気や感情とは裏腹にいつもと同じトーンで話すかるび。
それを気にも留めずにアボカドは説明を始めた。

この洞窟に入ってからは魔物の気配はしなかった。
だが、説明を聞きながら奥に進んでいくと、魔物の気配が増していく。
今まで多くの魔物と戦ってきた三人には、それが感覚として分かった。
分かれ道に差し掛かる頃にアボカドの説明は終わる。
アボカド「この山には「メタルぷよ」と呼ばれる、ぷよの一種がいる。」
うな  「メタル?硬いのか?」
アボカド「そうだ。この山の鉱物を主食として生息していた結果、体が鋼鉄のように硬くなったぷよだ。
     そして、そのぷよが今回の修行で役に立つだろう。」
かるび 「そのぷよを食べるのですか?」
本当に話を聞いていたのだろうか。
複数の溜め息が洞窟に響き渡る。
アボカド「……鋼鉄の体だと言っただろう?
     …さて、本題だ。そのメタルぷよは勾玉を持っている。
     それを手に入れて頂上に辿り着くことが課題だ。
     厳密には、頂上に着いた次の夜が明ける頃なのだがな。」
うな  「思ったより簡単なんだな。ぷよだし。」
三人の不安や緊張は少しの間だけ取り除かれた。
アボカド「油断するな。奴は体が硬いだけでなく、逃げ足も速い。」
うな  「つまり、追いかけて倒してしまえばいいんだろ?
     よし、俺達はこっちに行くぞ、すいか帽!」
かるび 「焼き肉が私を待っています!」
アボカド「あ…ま、待て!!」
彼が呼び止めた時にはもう遅かった。
すいか帽とうなは分かれ道の左へ、かるびは右へと走って行ってしまっていた。
取り残されたアボカドは、突然の出来事に気が高ぶり思わず声を漏らす。
アボカド「私も協力するつもりだったのだが…。
     …まぁ、彼らなら大丈夫だろうな。」
独りで言い終えると、ゆっくり歩くように意識しながら右の道へと姿を消した。
彼の背中のマントだけがいつまでもゆらゆらと光を反射していた。

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