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第46話 闇の中の争奪戦

嫌に明るい洞窟の中を、うなとすいか帽の二人が並んで歩いている。
先程までは軽快に走っていたのだが、途中から目的地が分からないことに気付き、
ゆっくりと周りを見回しながら進むことにしたのだ。
今探すべきはメタルぷよ。
それすら忘れて走っていたようだ。
うな  「あ〜あ、どこかにメタルぷよ落ちてないかなぁ…」
すいか帽「…。」
だが、噂をすれば影。
奥の曲がり角から1つの光が現れる。
その反射光が薄れたときにその全貌が明らかになった。
…ぷよだ。
丸い体に尖った頭、そしてユーモラスな顔立ち。
今まで見てきたものとの違いは、ギラギラと光る冷たい体だった。
うな  「いたぞ!!メタルぷよだ!!」
束の間の達成感で、思わずすいか帽の袖を引きながら指を指して叫ぶうな。
しかし、それがいけなかった。
ぷよ  「ぷよ!!?」
メタルぷよはその声に飛び上がって驚き、一目散に元来た道へと逃げ出した。
うな  「げ…すいか帽、追いかけるぞ!!」
二人はメタルぷよを追って全速力で走る。
今の曲がり角を曲がると、そのまた奥の角をぷよが曲がっているのが目に付いた。
だが、その奥まで走って見たときには、次にどの角を進んでいったのか分からなくなった。
うなは、走りながらにしてその瞬間の閃きだけで策を練らなければならなかった。
うな  「よし、二人で手分けして探すぞ!」
彼がそう言うと、両者は二手に分かれて行った。
二人の頭にアボカドの忠告が蘇る。
奴は逃げ足が速いんだ。


うな「はぁ、はぁ、はぁ…。
   くそ、何処に行ったんだ!!」 息を切らして走るハンバーガーのうな。
空気が薄いのに激しく走ったせいか、あまり真っ直ぐ歩けていない。
何も知らない者にしてみれば、奇妙なことこの上ないだろう。
彼はいくつも曲がり角に出会す。
先程から次第に曲がり角が多く続くようになっている。
この山自体が天に向かって鋭利になっているのが原因だ。
断面の表面積が狭いのだから、自然と道は渦を巻く。
また曲がり角を曲がったうなは、曲がってすぐに驚いて勢い良く後ずさった。
うな「!!!!」
目の前にいたのは、人間の騎士のような姿の魔物。
軽い鎧で身を固め、長い剣を二本も持っている。
兜で固めた頭を垂れ下げたまま、目はしっかりとこちらを睨んでいる。
うな「何だよ。俺とやるのか?」
魔物「……。」
言葉で通じないとは端から分かっていた。
洞窟が暗いのも相俟って真っ青な顔。青白く光る目をこちらに向けて斬りかかってくる。
うな「なら…これでもくらえ!!」
掛け声と共に、飛びかかって短剣を振る。
だが魔物の剣に受け止められてしまう。
うなの短剣は二本の剣に挟まれる形になっている。
このままでは圧倒的に不利…そう思ったうなはすぐに打って出る。
うな「炎の息!!」
短剣で剣を弾き飛ばして、すかさず炎を放つ。
だが、どうしたことか炎は全てすり抜けて後ろの壁を焼き付けるだけだ。
うな「何…まさか、亡霊か!?」
考えるより前に出た当てずっぽうな言葉だったが、皮肉にもその予想は当たっていた。
僅かだが向こう側の景色も透けているのにやっと気付いた。
つまり、死して尚彷徨う亡霊ナイトと言ったところか。
厄介なことになったと運命を恨むしかない。そう思っている内にも魔物は斬りかかってくる。
うな「くそっ、どうすれば…」
一本の短剣で魔物の二本の剣を弾き続ける。
自分もすいか帽のような剣技が使えれば…
かるびの使うような魔法が使えれば…
自分一人でも、誰に頼らずとも戦えれば…。
事が動いたのは、先程と同じく二本の剣を短剣で受け止めたときだった。
うな「毒の息!!」
熱く眩い息とは違う、冷たく毒々しい息を吹きかける。
先程の攻撃の後。試行錯誤の攻撃でしかなかった。
だが、予想に反して願いは叶い、魔物の持っていた剣が錆び始めた。
うな「よし、くらえ!!」
そう叫びながら、飛び上がって斬りかかる――意識しない内に、すいか帽の真似事になっているようだ。
そして、錆びて脆くなった二本の剣を同時に叩き斬った。
うな「よっしゃあ!!」
魔物「……。」
亡霊の魔物は手を構えると、その手に黒い光の柱と共に再び剣が現れる。
これでは何度やっても同じだと確信した。気付けば恐怖と興奮で手に汗を握っていた。
うな「くそっ…今度はこっちが逃げる番か!!」
うなは魔物の横をすり抜けて奥に走っていく。
後ろからガチャガチャと鎧の軋む音が聞こえる。
かなり走ったが、後ろについて来る気配は次第に薄れ、うなはまた歩き出した。
たった一体の魔物の前に、一人ではまともに戦えない自分を悔いるほか無かった。
  思えば、いつも俺はあの掛け声だけだった。『すいか帽、やっちまえ!』・・・
  最初に2人に会ったときは、自分が守ってやろうだなんて思っていた。
  それなのに今は、俺は端から自分一人の力で戦おうとしていなかった…のか?
  さるに捕まって、あの二人が助けてくれるのをただボーッと待ってたりもしたっけ…
  俺は…あの二人に甘えていたのか…?
もう一度うなは走り出した。


すいか帽「……………」
今、自分はメタルぷよを追いかけていた。
だが、目の前の光景に思わず目を奪われそうになった。
…ここは何だ?
水路で区切られた部屋に、タンスのような…いや、タンスそのものがいくつかある。
荒くも丸く削られた、身の丈よりも大きい大岩がいくつも転がっている。
謎の多い部屋だが、メタルぷよが隠れる場所として悪い場所ではないとすいか帽は考えた。
部屋の奥へ足を踏み入れる。
部屋はそれなりに入り組んでいて、用途の分からない袋小路すらある。
奥まで行ってみると、壷がいくつか並べて置かれてあった。
まさか目的の相手はいないだろうと思いつつも、半信半疑で1つ目の壷の中を覗いてみた。
??  「グッグッグ・・・」
すいか帽「…?」
何か、近くから魔物のような声が聞こえた。…気のせいだろう。
2つ目、3つ目の壷の中も確認してみた。
そして、最後の壷の前へ来たとき…
壷   「キシャーー!!!」
すいか帽「!!」
何と、壷がひとりでに飛び上がって襲いかかってきたではないか。
壷に擬態する魔物…この世界ではツボミーと呼ばれるらしい。
そんなことを考える暇もないすいか帽は、素早く身をかわして反撃に移る…
はずだったのだが、うっかり躓いてしまった。
すいか帽の腹を目がけて魔物が飛び込んできた。
そして、為す術もなく体当たりの直撃を食らってしまった。
すいか帽「っ………」
吹っ飛んで倒れたがすぐに立ち直り、剣を抜いた。
魔物は遠くでこちらの様子をうかがっている。
すいか帽は剣を構えたまま走り出す。が、その瞬間に
ツボミー「燃火符ーッ!!」
壷の中から炎が飛び出し、迫って来たのだ。
すいか帽「氷斬破!!」
後ろに下がりながら咄嗟に出したのは相殺する技。
壷から出た炎は冷えて消え失せ、氷の斬撃は熱で溶けきってしまった。
何度も間合いを詰めようと走るが、その度に炎で牽制されてしまう。
不運にもすいか帽は、
遠くの敵に攻撃する手段も、炎を防ぎながら攻撃する手段も持ち合わせていなかった。
…無論、すいか様を呼ぶわけにもいかない。
すいか帽は向きを変え、すぐ横の壁に向かった。
そして力を込めて剣を振る。
すると、壁は音を立てて崩れ、すぐ奥に道が現れた。
もう一度魔物の方に向き直す。
すいか帽「氷斬破!!」
ツボミー「燃火符ーッ!!」
炎と氷がぶつかり合い、その蒸気が両者の視界を遮った。
蒸気が晴れたとき、魔物の前にすいか帽はいなかった。
その代わりに後ろにいた…と言うわけでもない。
すいか帽は、壁を崩して出来た道から逃げ切ったのだ。
ツボミー「…グゥ」
魔物は元の位置に戻り、元通りに擬態し直した。
すいか帽は、奥へ奥へと走っていた。
  記憶の中にいる昔の俺は、
  たった一人で巨大な魔物に斬りかかって、そして追い払った。
  そして、俺が呼び出したすいか様もまた、たった一人で強敵をなぎ倒した。
  …でも今ここにいる俺は、仲間の協力がないと敵を倒せない。
  うなやかるびが協力してくれるから、今まで戦って来れた…
  仲間がいることに慣れすぎた…のか…?
走っても走っても、周りにあるのは岩やランプばかりで他には何もない。
仕方なく、走るのを止めて歩くことにした。
先程のように、タンスや岩の玉でもあれば気が晴れるだろうに…


右の道を進んでいたかるび。
先程からブツブツと呟いている。
かるび「焼き肉……か、それとも…………う〜…ん、どうすれば……。」
彼女にとっては難しい考え事をしていたようだ。
目の前が行き止まりだということにすら全く気付かない。
派手に頭をぶつけて後ろによろけ、ようやく我に返って自分の使命を思い出す。
そして、行き止まりから抜けるために、ぶつけた額を押さえながら後ろを振り返る。
…そこにいたのは、銀に輝くメタルぷよ。
かるび「……。」
ぷよ 「……。」
辺りの空気まで静寂を助長している。
鉄のように輝いていて、食感は硬そうで…
その形は、あの柔らかいはずのぷよ…?
彼女の頭につい先程の会話が思い出されるまで、かなりの時間がかかった。
かるび「メタルぷよ…?」
ぷよ 「ぷよ〜」
自分の使命を思い出したとき、かるびの形相に変化が現れる。
額を押さえていた手が下がり、その形相はメタルぷよの目にもはっきりと映った。
かるび「勾玉を下さい。焼き肉を下さい。」
そう言って、かるびはメタルぷよに向かって走り出した。
ぷよ 「ぷ、ぷよーー!!!」
メタルぷよは猛スピードで方向転換し、涙まで流しながら全速力で逃げ始めた。
さすがに、血走る目を向けて涎を垂らしながら狂犬のように走る少女の姿はショックが大きい。
静かな洞窟に猛烈な風が吹き荒ぶ。
信じられないが、両者のスピードは互角だった。
だが次の瞬間、メタルぷよは壁に向かって走って行ったかと思うと突然姿を消した。
かるび「!!?」
かるびは止まろうとしたが、その底の高い革靴では無理だったようだ。
大きく前につんのめりながら顔面から派手に壁に衝突してしまった。
壁で顔を擦りながら、滑り落ちるように頭から倒れ込むかるび。
顔が完全な俯せではなかったので判明した……どうやら、小穴に逃げられたようだ。
どこからともなくやって来る脱力感のせいで、その後も暫くかるびはその場に倒れていた。
本当に静かな洞窟だ。
自分の鼻血の滴る音さえ聞こえる…。

  確かに今の私には選択の余地がある。
  望みがあって、選択肢がある。私は恵まれているはず…
  …でも、どうすればいいの?
  恵まれているはずの今の私にも、どうすることもできないなんて…
  …また、一人になってしまうの…?

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