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第47話 真実の口封じ

すいか帽は、ほんの数十分前までうなと手分けしてメタルぷよを探していたはずだった。
と言っても、手分けどころか別行動。もっと言えば迷子だ。
なかなかお目当ての相手が見つからない。
…代わりに見つけたのは、鼻血まみれで壁際に倒れているかるびの姿だった。
顔のあちこちに小さな擦り傷が出来ている。
その色あせた虚ろな目が僅かに動いて、こちらの姿を捕らえる。
すいか帽「…?」
かるび 「え…あ…す、すいか帽さん…」
顔を赤らめながら慌てて立ち上がり、乾いた鼻血を素早く拭う。
虚ろだったはずのその目にいつも以上の色が戻っている。
かるび 「ええと…め、メタルぷよがここの穴に…」
口を開いては閉じ、必死に言葉を探している。
不思議と浮き上がる手を必死に抑え、辛うじて先程メタルぷよが逃げ込んだ穴を指さす。
すいか帽は精一杯の力を込め、静かに壁を低く蹴って穴を塞いだ。
塞がった穴を暫く見た後、かるびの方を向いた。
…その先の光景にすいか帽は驚いた。
かるび 「えっ…あ、え〜と…な、何ですか…?」
すいか帽は口が開いているのも気付かずにかるびの後ろの方向を指さす。
かるびが振り向いて見ると、そこにはメタルぷよがいた。
不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
かるび 「め、メタルぷよ…」
息を吐き出しながら呟くかるび。
次の瞬間、すいか帽がかるびより数秒早くメタルぷよに向かって走る。
ぷよ  「ぷよ〜〜!!?」
それを見たメタルぷよは一目散に逃げていく。
2人は道の右脇と左脇を陣取りながら追いかける。
こうすれば曲がり角に来たときに捕まえやすいだろうという策略は、
何故なのか、何も言わないままお互いに理解できた。
だが今は、見た目以上のスピードに翻弄されつつある。
このままではまた逃げられてしまう。
メタルぷよは右の曲がり角を曲がっているところだ。
だが、急にメタルぷよはその足を止めた。
そこにいたのは、うなだった。
うな  「お前らか! よし、挟み打ちだ!!」
メタルぷよは両者の間で、自慢の素早さで右往左往を始める。
ここまで来ればこっちのもの。
かるび 「凍結符!」
彼女の手の中で形成された札はメタルぷよの目の前の地面に叩き付けられる。
その地面の氷は凍り付き、メタルぷよは冠状の氷に囲まれて動きを封じられた。
ぷよ  「ぷよ〜!?」
うな  「悪いな。修行のためなんだ。」
すいか帽は剣を振り上げて力を溜め、メタルぷよに向かって剣を振り下ろす。
ぷよ  「ぷよ〜〜〜!!!」
まさに会心の一撃だった。
斬撃の破裂音と共に、メタルぷよの硬い体は真っ二つに切り裂かれ、そのまま薄れて消えた。
後に残った紫色の勾玉を、かるびは足早に近付いて拾い上げる。
かるび 「これが焼き肉の食材を手に入れるための鍵となるんですね。」
うな  「よし、じゃあ山頂を目指すか。」
かるびは勾玉をポケットに入れながら2人の後をついていく。
だが、彼女が案内役のように思っていたその2人もすぐに立ち止まった。
かるび 「…?」
2人は助けを求めるような引きつった顔でこちらを向いてきた。
彼女から答えは得られないと分かっていても。
うな  「頂上はどっちだ…?」

三人は頭を寄せて考えに考える。
しかし、三人寄っても文殊の知恵には程遠い。三人に出口を知る術は全く無かった。
洞窟の内部はいくつものランプで照らされるばかりで外からの光は全く無い。
空気が薄い上に、無い知恵を絞って必死に考えたので頭に痛みさえ覚えた。
三人が諦め始めた頃、突然目の前に鬼火のような青白い光が現れる。
強い光を放ってはいるが影を作らない不思議な光だった。
…本当に鬼火なのかもしれない。
ゆっくりと道なりに進むその光に、三人の目は釘付けになる。
かるび 「きっとあの光が頂上へ導いてくれるのです。」
うな  「そうか? …そうかもな。」
三人はその光を追って歩いていった。
遠い後ろの角からこちらを見ている影にも気付かずに…。
??  「無事に終えたか…。
     彼らなら、不可能ではないな…」


彼らを導く光は次第に薄れていく。
だが、外からの光に紛れているだけなのだから問題ない。
一同はやっと外の光を浴びることが出来た。
明るさを保たれた洞窟とは言え、長い間いたので眩しさで目を開けられない。
もう日は沈みかけているはずなのだが。
かるび 「目が開きません…」
うな  「うう、眩しいなぁ…」
必死に目をこする一同。
次第に、少しずつではあるが前が見えるようになった。
うな  「お、ここが山頂か?」
見れば、前方に女性の人影が見える。
女性  「登頂お疲れさまです。
     ここは陰陽師の修行山の山頂です。
     土産物店が並ぶ、修行される方々の憩いの場です。
     お立ち寄りの際は是非「陰陽師サブレ」をお買い求め下さい。
     どうぞごゆっくりしていって下さい。」
自分の耳を疑った。そして辺りを見渡した。
切り立った崖の向こう側には、夕日で赤く染まった雲が見える。
茶色い地肌を見せるその山々には所々に高山植物なども見える。
その切り立った崖の集落に点々と並ぶ土産店。
大きく"陰陽師グッズ"の文字の書かれた看板まである。
まさかこんな所でこんな言葉を聞くとは思ってもみなかった。
そう、かつて頂上に辿り着いた陰陽師たちが口を開こうとしなかった原因の1つがこれだった。
すいか帽たちもその内の1人に…。

三人は力無くも真っ直ぐ宿屋に向かった。
考えてみれば、神竜の祠に向かった朝から随分と長い間、十分な休息があったとは言い難い。
休んだときと言えば、気絶させられていたり海の上だったり…、とても十分に休めたものではなかった。
どんな夢を追う時でも、休息は大事にしなければならないのだろうか。
日が隠れてしまっても日は沈み続ける。
沈みゆく日は眠りの深さ。
明日は何が起こるんだろう…
すいか帽は爆音にも似た2人の鼾を聞きながら眠りについた。

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