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第58話 未知に次ぐ未知

日が暮れた。
あれほど日差しが照りつけていた大地もすっかり冷めてしまっていた。
タヒチと神父は魔法の効果が切れて目が見えるようになり、
うなの毒はタヒチの解毒の魔法で消え去った。
そのために一度起き上がった彼らだったが、
最寄の影である立ち木のそばまで歩いてまたすぐに倒れるように眠り始めた。
だがすぐに太陽で熱せられた地面で炙られ始めてしまった。
暑さのせいでじっとしている訳にもいかず、森の中へ足を踏み入れた四人。
そうでなくとも、かるびを探さなければならなかったのだ。
四人は出来る限り隅々まで森を探し回った。
途中で出会した数少ない魔物を全て倒していったので、島に残る危険な魔物は僅かとなったはずだ。
しかし、かるびほどの大きさの人間が隠れられる場所などほとんど残っていなかった。

かるびの捜索は次の日もその次の日も続けた。
幸か不幸か、それ以外にできることが見つからなかった。
かるびがいないと確定した場所が広くなっていくにつれて、不安は募っていった。
最初に諦めたタヒチが西瓜畑を耕し始めていた頃、他の三人は森の中心部の大樹の根元で奇妙なものを見つけた。
光を一様に反射する、磨かれ尽くされた巨大な金属の塊。
筒状で地面に埋まっていて、人間4人が上に座れるほどの大きさだった。
冷たく凹凸も無いそれは、不気味さで塗り固められているようだった。
その隣には、同じく不気味な真四角の金属塊が埋め込まれていた。
うな  「なんだろうこれ…触っても大丈夫かな?」
神父  「ここに刻まれてる文字って、ひょっとして古代文字じゃないですか?」
うな  「お、読めるのか!?」
神父  「いや、読めませんけど。」
殴られて痛む頬をさする神父を尻目に、注意深く観察する二人。
うな  「なんかボタンみたいなものがあるぞ。
     こんなに小さいボタンなら押しても大したこと起こらなさそうだし、押してみるか。」
素早い動きで、赤いボタンを押すうな。
すると、金属の筒の上面が魔物のように口を開けた。
三人とも驚きのあまり飛び上がって木の上まで逃げたが、それ以上は全く動かないのですぐに戻ってきた。
うな  「びっくりしたなー…」
神父  「これ魔物とかじゃないですよね?大丈夫なんですよね?」
開いた穴を覗き込んでみると、遥か下方に照らされた床が見える。
ここは森の中で、光は木々に遮られているはずなのに、そこだけ明るかった。
壁面は相変わらず不気味に滑らかだが、取っ手のような物が固定されてあるので昇り降りができそうだ。
どうやら何者かによって作られた地下室のようだ。それ以上は分からない。
しかし、陸からも海からも隔絶されたこの無人島に何故こんな物があるのだろうか。
うな  「ひょっとしたら、この下にかるびがいるかも…」
神父  「何が潜んでいるか分かりませんよ?
     先に島から出る方法を探した方が…」
うな  「この下に岩礁をぶっ壊す爆弾とかがあれば良いな。」
神父  「…まぁ、私は行きませんよ。行くならお二人でどうぞ。」
先程から入り口に五歩分以上近づいていない神父。
無理矢理連れて行っても活躍は期待できそうに無いので、お言葉に甘えることにした。

慎重に慎重を重ねて床まで降りてきた二人。
そこは、壁も床も天井も、滑らかで冷たい金属でできていた。
今まで見てきた石造りのダンジョンの数々と比べても、あまりに滑らかで傷一つ無い。
天井に明かりが灯っているが、地上とは大違いの涼しさだった。
うながかるびの名前を呼んでみたり、焼き肉があると叫んでみても返事は無い。
しばらく進むと大広間があった。
通路よりもさらに眩しく照らされていて、部屋を取り囲むように無数の扉が並んでいた。
明かりの源は火ではないようだ。光る石の類を想像したがよく分からない。魔法の産物だろうか。
適当な扉の前に立ってみたは良いが、開け方が分からない。
壁よりも滑らかで取っ手が無い。二人で思い切り体当たりしてみてもビクともしない。そして痛い。
すいか帽「………」
うな  「はぁ……開けられない扉なんて作るなよ…」
広大な広間に佇む二人。
音が無い。地上にもほとんど音は無かったが、ここは全く違う。
命の音が無い。命を受け入れる温かみが無い。これでは自分たちも生きた心地がしない。
扉を一つ一つ調べ始めた二人。
…一箇所だけ開いていた。奥の景色が周りの壁に溶け込んでいて気付かなかった。
その先の階段を下りると、何やら大きな台座のような物体の前に辿り着いた。
これもまた青白い金属でできているようだ。
四角い石の板のようなものが置かれ、仄かに輝いていた。
うな  「…どこかで見たことあるような…」
それは確かに、素材こそ違うもののキルフェボンの廃墟で見たものと少し似ていた。
二人は慎重に慎重を重ねながら台座に近づき、覗き込んだ。
その時突然、無音だった地下に地響きが襲った。
すいか帽「っ!!!」
うな  「な、何だ!?ホントに爆弾とかがあったのか!?」
地下を照らしていた光は一斉に真っ赤になり、獣の遠吠えのような機械音が鳴り響いた。
驚いて辺りを見回したが、すぐに視線が元の位置に戻った。
台座の白い光が強く増していったのだ。
留まることのない光の増幅に、後ずさりした二人。
すいか帽の背中に何かが当たった。
振り向いて見ると…ボタンがあった。
先程地上で見たような小さいボタンではなかった。
開いた手のひらよりも大きいボタンを押してしまったのだ。
ボタンの大きさが仕掛けの大きさを示すことは、今までの経験からしてもはや常識。
一瞬で頭の中が絶望の色に埋め尽くされた。
二人の体は白い光に包まれ、体が真上に吹き飛ばされるような感覚に襲われた。
体が軽くなっていく。
…そして、意識を失ってしまった。



かるび「………」
かるびは考えていた。今からどう行動するべきかを。
かげ魔王の攻撃で吹き飛ばされた後からは意識を失っていたようだ。
自分は木の上に居る。魔法で治せないような外傷は無い。
この場にはすいか帽もうなも居ない。それは下にいる魔物ののんきな様を観察して分かった。
このまま体を捻れば簡単に木から降りれるのだが、暫く泳がせてすいか帽たちを探させていたのだ。
かるび「『鎌鼬符』…」
ぼそりと呪文を唱えると、風の斬撃が魔物を切り裂く。ほとんど音を立てずに倒してしまった。
かるび自身、まさか一撃で倒せてしまうとは願ってもいなかった。
かるび「ではそろそろ…」
ようやく木から降りたかるび。
どうやらここは林の中のようだ。
まずは木の上から見えていた小道に入るかるび。
ゆるやかな坂道で、所々に古くはない足跡が見える。
小道の足跡に沿って進んだの先には、開けた場所があった。
立て札によると、ミコレの村という場所らしい。
かるび「………なるほど。」
彼女にはその立て札の文字は読めなかった。
その村は人の気配が無く、清々しいほどの静寂に包まれている。
ほとんどの家はまだ新しそうに見える。
人が居ないのが単なる留守ではないということは、食べ物の匂いがしないことですぐに分かった。
当ても無く歩き回っていると、奥の林道から一人の男が歩いてきた。
商人 「おや?この村の方ですか?」
かるび「焼き肉を探している方です」
商人 「…旅の方。
    私は旅する合成屋。よろしければ、あなたの道具を合成して新しい道具を作りますよ」
かるび「焼き肉は作れますか?」
商人 「…素材として牛肉か豚肉が必要です。」
かるび「牛肉でお願いします。」
商人 「…はぁ。この村って今は誰もいないんですねぇ。
    ここにいても全然客が来ない!
    10年くらい前にこの村に来た時は、老夫婦と小さな女の子が住んでたんですけどねぇ。
    そういえば、さっき西の川原に行ったときに、こんなものを拾ったんですよ。」
男がポケットから出した袋には、真っ黒な植物の種が数粒入っていた。
かるび「?」
商人 「これは凄いものですよ。なんと伝説のすいか『黒翡翠』の種ですよ。
    まさかこんな辺境の地でお目にかかれるとは…。
    ただ、こんな数粒だと商品にならないんですよね。
    どうやら何かお困りのようですし、何かの縁ですから差し上げましょう。」
かるびの手には数粒の種が残り、男は去ってしまった。
そして、その内の一粒はすぐになくなってしまった。
かるび「…固くて食べられませんね。」
残った種をポケットに仕舞い、探索を再開した。
適当にふらふらと歩き、一軒の家に入った。
かるび「ただいま。
    …何がただいまなんですか?」
どういうわけか、口から勝手に言葉が出てきた。
その家は特に変わった様子は無く、ただ分厚く埃が積もっているだけだった。
かるびは本棚にあった一冊の本を手に取った。
そして、すぐ近くの机に置いて開いて読んでみた。…が、字が読めない。
本を閉じると埃が舞った。咳き込みながらも、かるびは違和感に気付いた。
本を持つ手に、ずっしりと重みが生じたのである。
目をやると、端の方から少しずつ薄い土の色に変わっていっている。
変化は止まらず、ついに本は固く重く、石のようになってしまった。
もう一度本を開いてみた。ページが固まり、開ける箇所は一箇所しかない。
本を開ききった瞬間、視界が青白い光で覆われた。
かるび「!?」
彼女の体は青い光に包まれ、体が吹き飛ばされそうなほど軽くなった。
…そして、またもや意識を失ってしまった。

?? 「これはまた面白そうなことになってるな…クックック……」

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