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第7話 見えない終点

三人はクレモン城の南の森に来た。
森に近づいただけで、周りの木々の表情には変化が現れていた。
森に入ってもないのに、10歩先も見えないまでに森が深くなっていた。
日も射さないこの森を、本当に抜けられるのだろうか。
そう思った頃、3人は一人の老人を見つけた。
うな 「おっさん、ここで何してるんだ?」
老人 「待った!この森に入ってはいかん!!
    この森は「迷いの森」。一度入ったら抜け出せない、恐怖の森じゃ」
かるびは何かに気づいたようだ。
かるび「肉の香りがします。
    この乾いた感じは…そう、ビーフジャーキー。」
うなとすいか帽は、あまりに突然で、全く訳が分からない。
老人 「何!?確かにワシはビーフジャーキーを持っておる。
    おまえらにはやらんがな。」
かるび「森の奥の方からもビーフジャーキーの香りがします」
横の二人は、未だに何を言ってるのかさっぱりである。
老人 「何!?そこまで分かるのか!?
    このビーフジャーキーは森の奥にいる商人から買ったものだ。
    その商人は、この森を自在に移動し、
    迷い込んだ旅人相手に商売をしておるんじゃ」
老人はそう言いながら、3人の後ろに回る
老人 「この森に入るがよい。
    ビーフジャーキーのにおいをたどって商人に会うんじゃ。
    そうすれば、この森を抜ける方法が分かるかもしれん。」
うな 「…ありがとな。よし、行くぞ!」
かるび「ビーフジャーキー探しです!」
三人は森へと足を踏み入れていった。

うな 「で…その商人はどこにいるんだ?」
歩けば歩くほど森は深くなっていく。
それなのに何度も同じような風景に出会す。
かるび「南の方からビーフジャーキーの香りがします。」
うな 「よし、南だな。」
かるびを先頭に、うなとすいか帽が後ろで並んで歩いている。
そんな時、すいか帽の耳に木の揺れる音が聞き取れた。
足を止めるすいか帽。
うな 「ん?どうしたんだ?」
うなも足を止めるが、かるびは気付かずに歩いている。
すいか帽が見つめる先を、うなも見てみるが何も見あたらない。
うな 「何も無いじゃねーか。」
しかしすいか帽は腰の剣に手を添える。
もう一度見回してみて、やっとうなは気付いた。
生い茂る木の葉と並ぶほどの、まるで巨大な回虫のような魔物。
あまりに大きすぎて、その姿に気付くまでは大木にしか見えなかった。
魔物 「キシャーーー!!!」
魔物は木を押し倒しながらこちらに噛みかかって来た。
すいか帽は剣を振るが、魔物の牙に弾かれてしまった。
うな 「かるび、戻ってこい!!」
かるび「西ジャーキー……っ!?」
どうやら魔物の存在に気付いたようだ。
すいか帽の剣と魔物の牙の弾き合いの戦いが繰り広げられている。
かるび「…蒲焼きにしたら美味しそうですね。」
うな 「そんなこと言ってる場合じゃねーぞ。」
かるびが右手を前に突き出すと、そこに一枚の紙の札が現れた。
うな 「まさか…陰陽術か?」
神官魔法に続き、またも彼女の力を新たに発見してしまった。
うなが唖然としている中、彼女の札に炎の紋様が浮かび上がった。
かるび「燃火符!!」
札から勢いよく炎が吹き出した。
そして、魔物の体はたちまち炎に包まれ、ついに倒れてしまった。
かるび「蒲焼きの出来上がりです。」
うな 「いや、黒こげだから食べない方がいいぞ。
    それにしても、陰陽術を使うなんてすげーな。
    いつから使えるようになったんだ?」
かるび「分かりません。」
うな 「……」
会話が途絶えた。
三人はかるびを先頭とする元の陣形に戻り、森を進み始めた。

かるび「…すぐ近くでビーフジャーキーの香りがします!」
すぐ近くと言う割には、二人に相変わらず何のにおいも感じない。
漂っているにおいと言えば、草木が湿ったときの独特のにおいだけだ。
うな 「…ん?誰かいるぞ?」
そこにいたのは商人の格好をした男。
こんな深い森の奥にいるのだから、噂の商人に違いない。
商人 「何だ何だ?」
かるび「ビーフジャーキーを下さい」
うな 「違うだろ。この森を抜ける方法を教えてくれよ」
商人 「話が見えないんだが…そうだ、いい話を聞かせてやる。
  昔、昔、あるところにヘンデルとグレーテルという姉弟がいました。
  ある日貧しい二人は、ある森に捨てられることになりました。
  ヘンデルはおりこうさんだったので、パンを巻いて目印にしました。
  しかし、パンは全て小鳥たちに食べられて、
  帰り道は分からなくなってしまったとさ―――
    俺の言いたいこと分かるだろ?」
この話に意味などあるのだろうか。
かるび「つまり、パンをたくさん食べなさい、ということですね」
うな 「違うだろ。パンだけだと栄養が偏るから
    ちゃんとおかずも食べなさい、って事だろ?」
当然、三人に理解できるはずもなかった。
商人 「お前らバカか?つきあってられんな。
    悪いな、バカの相手をしてるほど暇じゃないんでね。」
商人は溜息をつくと、森のさらに奥に去っていった。
うな 「おい!まだ森を出る方法聞いてない…」
三人は森の奥深くに取り残されてしまった…

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