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第21話 至高を求めて

亡きオーボンの地下に灯りが一つ。
その灯りに照らされる人影。
そして、同様に照らされるも先の見えない通路。
竜の玉もここにあるものが最後の7つ目。
言うまでもなく、これが最終決戦。
3人は高鳴る鼓動を抑えて通路を進んでいく。

うな 「それにしても、暗いなぁ。」
かるび「焼き肉…」
うな 「お前、さっきからそればっかりだな…」
何故そこまで焼き肉が食べたいのだろうか。
それはもう一人にも言えることだ。
うな 「すいかが食べたいって……
    お前ら、まだまだやることがあるんだからな。
    気を抜いたら…ん?」
うなは突き当たりに壁を見つけた。
しばらく進むと、それが扉であることが分かる。
かるび「何か書いてますよ」
かるびはうなに読ませるかのようにそれを教える。
そう、彼女は字が読めないのだ。
それでいて何故、様々な高位魔法が使えるのかが不思議だ。
うな 「なになに…
 この先は至高を求める者のみが通る。
ここは神聖な決闘場。この先にあるのは、
七つ持ってすれば如何なる望みも叶うという「竜の玉」。
冒険者よ、集うがいい。そして己の力を試すがいい。
尚、この場所で如何なる事態が起きようとも、
我々は一切の責任を負わないこととする。
 by冒険者協会
    …なんじゃこりゃぁーーっ!?」
かるび「…何ですか?これ」
うな 「こ、こんな所にもあの冒険者協会が…」
無理もない。
あの有名な冒険者協会。
金稼ぎのためにわざわざ竜の玉を調達して、それを景品にするのだ。
以前すいか帽がこの近くで手に入れた竜の玉もその景品の一つ。
これは、彼らにとっては穴場作りの一環なのだろうか。
うな 「とにかく…この先に竜の玉があるんなら行くしかないな。」
かるび「焼き肉のためです!」
3人は扉に手をかける。

うな 「…開かないぞ?」
かるび「ノックしてみましょう」
うな 「そんなんで開くわけないだろ!」
かるびはうなの言葉が聞こえなかったように扉をノックする。
その音は入口近くまで響く。
かるび「ダメみたいです」
うな 「当たり前だろ!」
3人が騒いでいると、静かに扉が開く。
その場は一気に静まり返った。
そこには、謎の魔物…
狼のような顔をしていて、マントを羽織っている。
そのスマートな青い体からは神々しさすら感じられる。
魔物 「入れ」
うな 「え、えぇっ?」
魔物 「話は中に入ってからだ。」
かるび「そうですね、まずはお茶でも頂くことにします。」
うな 「アホかお前!」
かるびは笑顔で中に入っていく。
人を疑うことなど知らないようだ。
うな 「…もういい、一人で行け。」
すいか帽は責任感を感じ、渋々中に入る。
うな 「全く…お前らなぁ…」
うなはそう言いながらも、取り残されるのは嫌なので中に入る。
すると、扉が勢いよく閉まった。
 「!!!」
魔物 「驚く事はない。まぁ話を聞け」
かるび「お茶はどこのメーカーですか?」
うなはかるびを睨み付ける。
かるびが気付く訳はないが。

魔物  「私の名はアボカド。
     ここのダンジョンの第一の刺客だ。」
魔物は窓枠に手をかけて淡々と話し始める。
…ここは地下なのだが、何故か窓枠だけがある。
うなだけは先程からずっと身構えている。
他2人というと、西瓜や焼き肉の事で上の空だ。
アボカド「このダンジョンの仕組みは至って簡単だ。
     我々を倒しながら進めば竜の玉が手に入る…
     私を含めて4人いる刺客と、ここの王…。
     お前達は竜の玉を求めてここに来たのだろう?」
かるび 「はい。焼き肉の食材を探しています。」
アボカド「……。
     ならば、私と一戦交えるまでだ!!」
アボカドはマントの影から1枚の札を取り出す。
アボカド「燃火符!」
札から炎が出る。
だが、かるびの使う燃火符よりも炎が大きい。
これが実力の差だろうか。
かるび 「纏水!!」
部屋を二分するように地面から水が吹き出る。
炎はその水に当たった途端に白い煙を上げながらみるみる消えていく。

アボカド「少しはやってくれるようだな。だが、これならどうだ!」
そう言うとアボカドはマントをなびかせる。
すると、アボカドのその細い手とは別に、
マントの影から巨大な手のような物が2つ飛び出した!
2つは弧を描きながらこちらに向かってくる。
うな  「やばい、避けろ!」
すいか帽とうなは素早く避ける。
だが、その手は自ら動き、2人に攻撃しようと構える。
かるび 「加護!!」
2人の体が光に包まれる…はずだったが、うなにその光が届く前に、
うなは手に押さえつけられてしまった。
うな  「くっそー、コイツめ…」
アボカド「どうした、お前達の実力はその程度か?」
ずっと無表情のままのアボカド。
かるび 「うなさん!」
うな  「バカ!、こっちに来るな!」
かるび 「え? きゃぁ!」
かるびは後ろから飛んできたもう一つの手に捕らえられてしまった。
アボカド「あと一人…」

うな  「ヘヘ、お前、そんな細い手で何ができる?
     すいか帽、さっさとあいつをぶっ倒せ!!」
アボカド「浅はかな…」
うな  「ん?」
そう言うとアボカドは黒く光り出す。
そして、地面の下から大きな剣が複数、ゆっくり上がってきた。
そして、アボカドの肩の前で腕のように組まれる。
アボカド「これでも隙だらけだと?」
うな  「ちくしょう、すいか帽!
     …俺達を助けろ!」
すいか帽は2人の方向に走る。
そして、剣を構えて手に斬りかかる。
だが、傷一つつかない。
かるび 「うぅ…麻痺!!」
かるびは両手を自分を掴んでいるアボカドの手に向ける。
すると、アボカドの手は動きを止める。
そして、力の抜けたその手からかるびは抜け出すことができた。
うな  「お〜い、俺も…」
かるび 「…麻痺。」
うなも同じように抜け出すことができた。
うな  「次はこっちの番だ!炎の息!」
アボカドは剣を回転させてその炎を跳ね返した。
アボカド「停止剣の舞!!!」
アボカドの周りに浮いていた剣が全て向きを変え、こちらに飛んで来た!!
このままでは全員切り刻まれてしまう…

と、その時
「ゴーレム!!」
 「!!?」
目の前に光や煙と共に緑と黒の縞模様の巨人が現れた!
そして、その巨人に剣が当たるも、全て乾いた音を立てて地面に落ちる。
声の主は…すいか帽だ。
剣を全て跳ね返すと、その巨人は消えていった。
アボカド「クッ…!」
今になって始めてアボカドの表情に焦りが見える。
うな  「よっしゃ、行くぜ!!」
アボカドはまた黒く光り、剣を纏おうとする。
だが、3人ともそれより早くアボカドのすぐ前まで来た。
うな  「炎の息!!」
 炎がうねりながら飛び、
かるび 「鎌鼬符!!」
 無数の風の斬撃が飛び、
すいか帽「氷斬破!!」
 巨大な氷の斬撃が飛ぶ。
3人の総攻撃を受け、アボカドは声もなくしゃがみ込む。
アボカド「く…悔しいが…私の負けだ…。」
そう言うと、アボカドは鍵を差し出す。
アボカド「この鍵で…次の部屋に…進める…。
     健闘を祈る…」
3人は鍵を受け取ると、次の部屋へと向かう廊下へ出た。
アボカド「…おもしろくなりそうだな…」

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