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第30話 堕落の宣教師

凍り付いた泉が青白く輝いている。
上からは確認できないが、この下に神竜が封じ込められたままである。
うな 「…竜の小玉を探すしかないのか…?」
かるび「宇宙旅行に行くと言っていました。」
うな 「なら、竜の小玉を集めても意味無いんじゃ…?」
と、その時、突然洞窟が激しく揺れだした。
?? 「うおぉぉぉぉーーーーーー!!!!!」
うな 「なっ、何だ!?」
すると、泉がもくもくと煙を上げだす。
?? 「灼熱フレアーーーーーー!!!!」
そして、泉から爆発するように炎が吹き出した。
?? 「…あちぃぃーーーー!!!」
そして、その炎の壁から煤だらけの竜が転がり出てきた。
そう、先程までいた神竜だ。
神竜 「お前ら!!俺を殺す気かぁ…ぁ…」
神竜の顔はたちまち青ざめた。
3人は既にそれぞれの武器を神竜に向けて構えていた。
神竜 「…ごめんなさい」
かるび「分かればよろしいのです。」
3人の表情は、いつもの朗らかな表情とは遠くかけ離れていた。
うな 「誠意を見せてくれよ。金とかアイテムとかで。」
神竜 「うーん…そこにある供え物なんかどうだ?」
見れば、先程神父が置いていった供え物が棚に並べられていた。
…言うのも何だが、安物が多い。
うな 「すいかは無いのか?」
神竜 「竜の玉揃えてないだろ。」
うな 「あ、いいのかな〜、そんなこと言って。」
うなの目は全く笑っていない。
神竜 「……」
さすがの神竜も、今が人生最大の危機だっただろう。

と、そこに賑やかな話し声が聞こえてくる。
商人 「本当に神竜様がいるんだって!?」
子供 「見たいなぁ。お願い事したいなぁ。」
老人 「こんな珍しいもの、二度とお目にかかれないじゃろうな」
神父 「はいはい皆さん、押さない押さない。」
そう、町中の人があの神父の話を聞いてついてきたのだ。
お陰で、人気のまるで無いこの祠も大賑わいとなった。
うな 「何だ?何の騒ぎだ?」
商人 「あ!!あれが神竜様か!?」
子供 「わぁー、凄いなぁ。大きいなぁ。」
かるび「竜肉の競り落としですか?」
神竜 「…あーあ、見つかっちゃった。」
神竜はため息をつく。
神父 「どうです皆さん!!これが伝説の神竜様です!
    神竜様は言い伝え通り、この祠に実在したのです!」
 「おおぉーーーー!!」
4人はこの騒ぎにただただ呆然とするだけだった。
人々は状況を全く理解していないようだ。
まさか伝説の神竜様が今まさに恐喝に遭っていようとは夢にも思わない。
もっとも、神竜の姿を見られればそれでいいのだが。
老人 「おぉぉ…何という事じゃ…生きてて良かった…もう悔いは無い…」
子供 「神竜様〜、僕に優しいお兄ちゃんを下さ〜い。」
神竜 「今更兄貴欲しがられてもなぁ。
    って、違ぁーーーーーう!!!」
 「!!!?」
神竜が一喝すると、その場は一気に静まり返る。
先程までの賑やかさが嘘のようだ。
呼吸の音すら聞こえない。
神竜 「お前らなぁ、竜の玉もろくに集めてないのにここに来るな!!」
商人 「ああ、そう言えばそうでしたね。」
老人 「言い伝えは全て本当だったのじゃ…」
子供 「お兄ちゃんを下さ〜い。」
神竜 「だから兄貴は無理だって。」
うな 「で、話は終わってなかったよな?」
神竜 「う……」

神父 「そう言えばあなた達は竜の玉を集めたんですよね。
    何を貰うんですか?」
うな 「竜の小玉をあと6つ集めてからまた来いってさ。
    一個小さいくらいでケチなヤツだなぁ。」
神父 「え…竜の玉を7つ集めればいいのでは…?」
神竜 「だからな、7つ目の竜の玉なんて元々無かったんだって。
    多分、変な風に省略されて伝わっただけだろ。
    俺は竜の玉とは別に小玉を7つ用意して、
    世界各地の魔王共に守らせたんだよ。土下座して。」
うな 「土下座かよっ」
神竜 「何せ世界七魔王だぞ?俺が力でかなう訳ないだろ。
    貢ぎ物もかなりしたしな。
    1位のかげ魔王なんて3日かけてやっと説得できたんだからな。」
この話で人々の評判ががた落ちしたのは言うまでもない。
商人 「神竜様は世界で一番偉いんじゃなかったのか?」
老人 「おぉ…言い伝えは覆されたのじゃ…」
神竜 「分かっただろ?
    それではごきげんよう。」
うな 「ちょっと待った。まだ何も貰ってないぜ?」
かるび「竜肉でも許します。」
子供 「お兄ちゃんが欲しいですぅ〜」
その時、先程までとは打って変わって、神竜の感情に"怒り"が加わった。
神竜 「あぁーーもう怒った!!
    これをやるからどっか行け!!!
    空の手!!」
すると、3人の体が僅かに浮かび、白い光に包まれた。
 「うわあぁーーっ!!!」
3人は訳が分からないままワープさせられてしまった…
…だが、正確には3人では無かった。
あの神父までもがその光に巻き込まれてしまったのだ。

商人 「うおっ!?神父様!?」
老人 「神竜様!!どういうことなんじゃ!?」
神竜 「うるせーよ。用がないならとっとと帰れ!」
子供 「大きくなったら竜の玉を集めてお兄ちゃんを貰うんだ!!」
神竜 「だからなぁ……
    ま、いいや。それでは皆さんご機嫌よう。」
神竜は煙と共に消え去っていった…。
人々は少し待った後、小声で話しながら祠を後にした。

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