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第36話 あなたが見えなくて

すいか帽達が迷い込んだ「サル時空」。
時間の中に作られた空間。
ここを脱出するには、その時空を支配する者を撃ち破る必要がある…。
ミザル 「あなた達が誰かは存じませんが、
     私達に逆らうというのなら成敗せざるを得ませんね。
     行きますよ!! 乱4撃!!」
ミザルは爪を立てて高く飛び上がる。
…それも、あらぬ方向に。
ミザルの攻撃は4回も空を切る。
ミザル 「…アイマスクしてるから、何も見えないです。
     何処にいるんですか?」
神父  「……」
すいか帽「……」
ミザル 「隠れても無駄です!!早く出てきなさい!!」
隠れているのではなく呆れているのだが。
だが、このままやり過ごしていても他の2人が心配だ。
神父  「…早く倒してしまいましょう。」
神父は先端に水晶玉のついた杖を取り出した。
神父  「ペイン!」
そこに白い光が集まり、小さな球となってミザルに飛んでいく。
そしてその光は、ミザルに当たると砕け散るように分散していった。
ミザル 「痛っ!!!
     …そっちですね!!覚悟しなさい!!」
ミザルは勢いよくこちらに走ってきたはいいが、
やや方向が反れ、やはり空を切る。
ミザルは足元に床があることを確認してこちらを向く。
…やはり少し方向がずれているが。
神父  「すいかの帽子の…早めに片を付けましょう!!」
すいか帽は構えていた剣を持ち直す。
そしてミザルの方へ走る。
だが、その足音は確実に聞き取られてしまった。
ミザル 「そっちですね!! 毒牙!」
ミザルは大口を開けてこちらに飛んでくる。
すいか帽は剣をミザルに向けたまま同じく飛ぶ。
神父  「ああ!!危ない!!」
だが、ミザルは途中で地に足を着いて止まった。
どうやら、距離までは分からなかったようだ。
そしてすいか帽の剣が、辺りを見回しているミザルの体を横切る。
すると、ミザルの体は薄れ、引き潮のように薄れていく。
ミザル 「ぎゃあぁぁーーー!!!
     サ、サル時空が崩れるーーー!!!」
ミザルの体と共に、周りの空間が乱れながら崩れていく。
そして一瞬だけ真っ暗になったかと思うと、両足が床から離れた。
2人は思わず目を瞑る。


すいか帽が目を開けると、見覚えのある風景。
そう、サル時空に送られる前と同じ場所。
だが、異様な静けさが漂っていた。
…猿がいない。
辺りを見回すと、遠くで火が見えた。
誰かいるのかと思い、近付いてみた。
近付くにつれ、何故か嫌な予感がする。
そして、そこに1つの人影を見つけたのだが、この予感が正しいことが証明された。
かるび「さる屋へようこそ。
    今日は開店サービスでさる食べ放題になっています。
    ごゆっくりしていってください。」
その笑顔が余計恐怖心をかき立てる。
こいつならいつかやるとは思っていたのだが。
なんとなく火の方向を見ると、ほぼ予想通りの光景。
先程まで甲高い声で叫んでいたであろう大きな猿が火に炙られている。
脂が上手い具合に垂れ、香ばしい香りさえ漂う。
そして、その脇に目をやると…
ロコ 「さる美味いよ。
    食べ放題って言うから、もう8匹も食べちゃったよ。
    もぐもぐ…。さる美味いなー。」
すいか帽に向かい、口の中に大量の肉を頬張ったままブツブツ言う見習いパン職人。
ロコ 「肉厚だし、脂も濃厚だし、柔らかい歯ごたえも、全てが最高だよ。
    君も食べてみるかい?」
そう言うと、ほぼ強引に肉を刺した棒を持たせる。
すいか帽はできる限り何も考えずに口に運んでみる。
 この香り
   この味
     この食感
…そう、全てが斬新だった。
すいか帽がしばらく唖然としていると、右側にチラッと何かが見えた。
水色の大きな猿。
そう、ミザルだ。
こちらに歩いてくるが、やはり止まる気配がない。
そのまますいか帽に衝突した。
何故こういうときだけこちらに真っ直ぐ来るのだろうか。
ミザル「ぶ、ぶつかってごめんなさい。
    ところで…美味しそうな香りですね。
    何食べてるんですか?私にも食べさせて下さいよ。」
すいか帽は、彼が盲目なのをいいことに肉をのせた皿を差し出す。
ミザルはそれをゆっくり味わう。
ミザル「この肉、美味しいですね。何の肉なんですか?」
やはり分かっていない。
共食いとも知らずに何切れも口に運ぶ。
ミザル「え?すいかが食べたい?
    そうですね。
    こってりした肉の後には、さっぱりしたすいかが食べたいですよね。
    そうそう、私、さる魔城に行かないといけないんでした。
    なんでも、さるを食べようとする悪い人間達がやってきたらしいですね。
    怖いですねー。
    まぁ、さすがにさる魔王様にはかなわないとは思いますけどね。
    というわけで、そろそろ失礼しますね。」
そう言うとミザルは城と反対の方向へ歩いていく…。
そして、足元に流れる川にいち早く気付き、方向を変えて歩く。
すいか帽とロコはそれを眺めていたが、次の到達点には呆れる。
自ら猿を焼く炎の中に向かっていくではないか。
ミザル「…あちーーーっ!!!」
ミザルは驚いて飛び退く。
ミザル「ふー、危ない危ない。丸焼きになってしまうところでしたね。
    城はどっちでしょうか?」
今度はやっと城の方向へ向かっていった。
この後の彼の苦労を想像するのは案外楽しい。
ロコ 「もぐもぐ。もう1匹食べようかなー。」
隣のロコはまだ猿を食べ続けている。

そこへ、一つの影が近付いてきた。
猿を食べながら横目で確認すると、うなだった。
どうやら無事脱出できたようだ。
うな 「あーあ…結局さる食べてるんだな。
    …で、美味いのか?ちょっと食べさせてくれよ。」
こんどはミザルとは違う理由で肉を渡す。
うな 「もぐもぐ…
    さるって結構美味いんだな。」
他の3人ほどいい反応ではなかったが、これが妥当だろう。

今の今まで猿を食べていたロコが口の周りを拭いて話を切り出す。
ロコ 「ところで、いつになったら親父を助け出してくれるんですか?」
うな 「そう言えばそんな話もあったな。
    …よく考えたら、まだ城の中にすら入ってないな。
    俺達一体何やってんだか。
    そろそろ出発するか。」
かるび「まださるが残ってます。」
うな 「いいから行くぞ!」
うなは2人を引っ張るように城へ向かっていった。

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