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第40話 無言の逆襲

すいか帽とかるびの2人の前には様々な猿が現れる。
褐色の猿、原色の猿、さる玉…
そして、次に現れたのはアイマスクをつけた水色の大きな猿だった。
あの時に戦ったミザルだ。
かるび「あ、バナナがあります。」
見れば、硝子で仕切られた部屋の向こうで大量のバナナが行進している。
ミザルはこちらに気付いたようで、向きこそ違うもののこちらに話しかけてきた。
ミザル「どなたですか?ひょっとして、見学の方ですか?
    ここはバナナ工場なんですよ。
    このバナナ達は自分で歩くんですね。凄いですね。
    彼らは壁にぶつかると左に曲がるように遺伝子操作してあるんですよ。
    さらに、さる魔王様の所まで行くように通路ができてるんですね。
    凄いですね。」
ミザルはあらぬ方向を向いて解説を始める。
そうでなくとも前に2人はいなかった。
2人とも長居している暇はない。
うながいるのは食料庫。
バナナを辿れば食料庫に行き着けると分かったのだ。
2人がいない事にも気付かないミザルは、まだ独りで演説を続けている…。

2人はついに見つけた。
「この先 食料庫」
その立て札の横には、大きな岩が、いや、大きな猿がいた。
冷たく輝く無言の要塞、イワザルである。
イワザル「……………」
かるび 「ここを通して下さい。」
イワザル「……………」
イワザルは口を開こうとはしないが、こちらを睨み付けてくる。
すいか帽はゆっくりと剣を抜いた。
その瞬間、かるびは後ろの気配に気付いた。
かるび 「すいか帽さん、後ろ!」
かるびに服の袖を軽く引かれ、すいか帽は後ろを振り向いた。
そこにいたのは、浮かぶ猿の顔、さる玉だった。
さる玉 「ウキーッ!!」
2人は挟み撃ちに遭ったようだ。
すいか帽はイワザルの方に向き直す。
2人は背中合わせに2匹と向き合い戦闘態勢に入る。
イワザル「……………!!」
さる玉 「ウキーッ!!」
2匹は同時に飛びかかってきた。
すいか帽「氷斬破!!」
かるび 「凍結符!!」
2つの冷気は辺り一帯を一気に冷やし、
その白い風となった衝撃波はお互いに押し合い風力を増す。
この攻撃を受けた2匹の猿は一気に凍り付く。
そして、凍ったまま粉々に割れ、両者とも跡形もなく消え去った。
後には、氷柱を拵えた天井と、残らず凍り付いた水路が一層輝くばかりだ。
2人は凍り付いた床で足を滑らせないようにゆっくりと食料庫に向かった。


ついに食料庫についた2人。
かるび「バナナがたくさん歩いてます。」
先程のバナナの行進を間近で見ることができた。
その行列を目で追っていると、その途中に1つのハンバーガーを見つけた。
それが、2人の目的であるうなだった。
どうやらバナナと話をしているようだ。
うな 「このまま食べられてもいいのかよ。」
バナナ「僕たちはさるに食べられる運命。運命から逃れることは出来ないんだ。」
うな 「行くのか?」
バナナ「ああ、さよなら。」
うな 「…」
心配を隠しきれないうなをよそに、バナナは立ち去っていく。
2人が近付くと、うなはこちらを向かないまま話す。
うな 「お前ら来るの遅いぞ。もっと早く助けにこいよ。
    ここは食料庫。
    ここからさる魔王のところに料理や食べ物が運ばれて行くんだ。」
バナナ達は列を乱すことなく向こう側の通路へと吸い込まれていく。
うな 「次のバナナが来た。」
バナナはゆっくりとすいか帽達の前を横切ろうとする。
うな 「待てよ、食べられてもいいのか?」
バナナ「僕たちは止まらないんだ。食べられる運命なんだ。じゃあね。」
落ち着いた声でそう言うと、他のバナナ達と同じ通路へと吸い込まれていった。
うなの方は、暗い表情を浮かべている。
うな 「ここにいるバナナ達は、自分からさる魔王の所へ歩いていってしまうんだ。
    俺はここでバナナ達と仲良くなったから、
    なんとかして助けてやりたいんだけど、何か良い方法ないかな?」
    北の出口はさる魔王の部屋に繋がっているから、
    バナナ達を西の出口にうまく誘導して助けようぜ。」
その話を遮ったのは奥からの目映いばかりの光。
キカザル「アンタ達の悪巧みはしっかり聞かせて貰ったザマス!
     アンタ達、バナナを食べようとしてるザマスね!」
うな  「いやお前、俺達の話全然聞いてねーだろ。
     食べるなんて一言も言ってねーぞ。」
キカザル「許せないザマス!美味しいバナナを独り占めするなんて!!」
金切り声が一帯に響き渡る。
すると、奥の通路からさらにさる玉が2匹も現れた。
うな  「3対3って訳か…。」
キカザル「オーホッホッ! 全員叩きのめすザマス!」

さる玉 「ウキーッ!」
さる玉は猛スピードでこちらへ向かってくる。
うな  「さっさと倒してしまおうぜ!!
     炎の息!!」
うなの炎が辺りを焼き尽くす。
軽くかわされるが、その炎は先程凍り付いた床まで届いた。
さる玉 「ウキーッ!」
2匹のさる玉は同時に白い光の球を放つ。
だがすいか帽が前に出て全て剣ではじき返す。
キカザル「何やってるザマス!さっさと倒すザマス!!」
キカザルは最初よりも遠く離れて一人で大暴れしている。
が、キカザルは勢い良くその場でひっくり返った。
そう、先程うなが氷を溶かした時の水が、僅かだがこちらに流れてきていた。
キカザルはそれに気付かずに滑ったのだ。
当の本人は行き場のない怒りに震えている。
キカザル「キィィーーーー!!!さっさと倒すザマス!!燃火符!!」
キカザルはあろう事か、さる玉達に向かって炎を放つ。
さる玉 「ウキーーー!!?」
さる玉は突然のことに驚いたのか、はたまた彼女の恐怖に堪えかねたのか、
すいか帽達の方に炎を纏ったまま突っ込んでくる。
驚く2人よりも早くすいか帽は剣を構える。
すいか帽「氷斬破!!」
氷の斬撃は熱せられ、全員の視界を遮るまでに激しく水蒸気を上げる。
その水蒸気が晴れると、そこにさる玉の姿は無かった…

うな  「さぁ、次はお前だ。」
だがキカザルは既にこちらを向いていない。
キカザル「用事を思い出したザマス。今日のところは見逃して差し上げるザマス。」
こうして彼女はほとんど無傷のまま帰っていった…
3人は暫くボーッとしていたが、目の前を横切るバナナを見て我に返った。
うな  「そうだ、バナナを西の出口に誘導するってところまで話したっけ。」
そう言うとうなは近くにある岩に近付いて撫でるように叩く。
うな  「バナナ達は左にしか曲がらないから、
     この岩を使えば方向を変えられると思うんだ。
     でも、俺一人じゃ動かせないからお前を待ってたんだよ、すいか帽。」
2人は、もう1人がそこにいないことは気にもとめなかった。
すいか帽は岩をうなの指示通りに動かす。
2人の知恵と力とが合わさればどんな困難も乗り越えられる…
本人達もそう感じるほど作戦は上手くいった。
うなの計算通りにバナナは西の出口に吸い込まれていく。
うな「よし、成功だ!
   バナナ達といっしょに脱出するぞ!」
2人は全てのバナナが出口を通ったことを確認するとバナナ達の後を追いかけていった。
1人足りないことにも気付かずに…。

その先の光景を目の当たりにし、うなは愕然とした。
うな 「なんじゃこりゃー!!!」
そこにあったのは無数のバナナの皮らしきもの。
言うまでもなく、どれも中身は無くなっている。
うな 「バ、バナナ達が!せっかく助けたバナナ達が、全部食べられてる!!」
彼に思い浮かぶ犯人は奴しかいない。
うな 「さるどもめ…!絶対許さないぞ!!」
怒りに震えるのを我慢しながら顔を上げると、すいか帽は遠くでこちらに手招きしている。
見れば、かるびが壁にもたれて座っていた。
うな 「あれ?お前こんな所で何やってるんだ?
かるび「食後の休憩です。」
うな 「食後?何か食べてたのか?」
彼女はスカートについた砂を叩きながら立ち上がり、ゆっくりと通路に向かう。
かるび「甘い物を食べたら、さるが食べたくなってきました。
    早くさる魔王を食べに行きましょう。」
もしも2人がかるびの口臭に気付いていたらどうなっていたことだろうか。
3人は猿で溢れているその道を進んでいった。


青い空に揺れる炎、そしてそれに焼かれる黒い魂。
??「さる美味いなぁ。
   食べ放題だし、もう1匹食べちゃおうかなぁ。」
やがて青い空に現れる緑の点。それは徐々に近付いてくる。
その点が地面に降り立つ頃には点は一つの生き物だとはっきり分かった。
 「ちょっと痛いけど許してね…。」
 ぶちぶちぶち!!
??「痛たたた!!」
 「悪いね。西瓜太郎クンを助けるためにもこれが必要なんだよ…」
??「…モグモグ。もっとさる食べよう。」
 「…呼んでくれるよね、西瓜太郎クン…」
その緑のものは上空へ舞い上がり、再び点となった…。

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