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第17話 反抗する怪物

 怪物の国、東の岩石地帯の山の麓。 そこにある岩の砦の中心に、ネズミの怪物ハーティは居た。

 ネズミたちのコロニーは山の中にある。洞窟を掘って開拓し、今や地下都市の様相を呈している。 ここに住む何百万匹ものネズミのうち、怪物化したものは大小含めて千体にも及ぶ。 彼らは用水路を引いて農業を始め、木や石の加工技術の研究も進めている。 そんなコロニーの最大の出入口があるのが西側であり、当然そこにある砦がコロニー最大の守りの要なのである。

 数に物を言わせ、国中に大勢の偵察兵を放っているが、近頃その死亡頻度が格段に上がっている。 トカゲの怪物に見つかった者が次々に殺されているのだ。 前王と同盟を結んでいたことが直接の原因ではない。現王の支配を拒んでいることが原因である。 彼らはそれでも尚、支配を拒み続けている。 力こそあれ、民を一切省みることなく兵力ばかり追求している様は前王グリースィと正反対だ。 穏健な前王と同盟を結ぶまで至ったハーティたちが現王に従う道理は無いのである。

 この日、ハーティの元に数人の偵察兵が戻った。 報告によれば、トカゲの怪物たちが徒党を組んでこちらに向かって来ているらしい。
「……ついに来たか。 何度も何度もわしらを従わせようとして、それが無理と分かったら癇癪起こして潰しにかかる。 そんな野蛮人どもに国の王が務まるかい!」

 ハーティは幹部たちを集め、迎撃の準備を指示した。
「この国最大の防衛力を以って、能無しのルーキーどもを捻り潰したれぃ!  そして、これを片付けたらすぐに王城奪還じゃ! わしらの力を思い知らせたるわ!」
「アイサー!!!」


 リカレンスとフロードは、スニアの先導に従ってトカゲたちの後ろを歩いていた。 今までの作戦よりも遥かに多くのトカゲの怪物が参加している。

 スニアが遠くを指差し、声をかける。
「見ろ、あれが例の砦だ」

 一見ただの切り立った崖と巨大な岩山。しかし、あちらこちらに通気口や水路が見える。 どうやら本当に山をくりぬいた中にコロニーを構えているらしい。 この水路が飲水や農業用水、排水を運んでいるのだろう。 つくづくネズミたちの文明レベルが高い事を思い知らされる。
「目の前の岩山がコロニー最大の砦だ。あそこから攻めることになりそうだ」
「なりそうだ、だと……? 決めてもいないのに統率が取れるのか?」
「……いちいち噛み付くなよ。どこぞのイヌじゃあるまいし」
「ああ!? 今イヌっつったか!? 俺様はオオカミだぞコラァ!」
「ほら見ろ、こうはなりたくないよな?」
「…………」

 リカレンスにとって、スニアの言動はいつも疑わしく感じる。 今まで一度でも彼の本心が聞けたことがあっただろうか。勝手な思い込みで済めばいいのだが。

 それからほんの少し歩いた時、スニアが翼を大きくはためかせた。
「さて、俺はそろそろ場所を移る。気にせず前進してくれ」
「……何だと?」

 理由を尋ねるよりも早く、スニアは左前方へと飛び去っていった。

 周りのトカゲたちにそれを気にする様子は無い。 湧き上がる疑念を押し殺しながら前へ進むしか無かった。

 トカゲの怪物の大群が列をなして進む。ひたすら進む。 ネズミのコロニーへと一直線に。

 ネズミの大群が砦からぞろぞろと出てくるのが見える。 普通のネズミの十倍近くはあろうかという大きさの怪物が、次から次へ止めどなく現れる。 その数はすぐにこちらのトカゲの数を超え、何十倍、何百倍、何千倍と増えていく。

 お互いがお互いを殺すための進軍。このまま進み合えば衝突は時間の問題だ。

 緊張高まりきらぬ内に、その状況に早くも一石が投じられた。砦からの投石だ。 無数の木組みの投石機が、握り拳よりも大きな石を雨のように飛ばしてきた。

 トカゲたちが走りだした。作戦通り砦の正面に向かって真っ直ぐ――ではなかった。 確かに最初は前進していたが、すぐに左右に散らばり、砦をぐるりと迂回するように走り去っていった。
「おい、どうなっているんだ。全隊で真っ直ぐ進む手はずだっただろう?」

 二人残されたことについてリカレンスは尋ねたが、一緒に取り残されたフロードが知る由もない。
「知るか。いいからさっさと前に出やがれ! それが貴様の仕事だろうが!」

 フロードがリカレンスの背中を思い切りどついた。 仕方なしに走って直進するリカレンス。

 ネズミの大群が押し寄せる。次から次へと飛び掛かり、体中に噛み付いてくる。 それも十体や百体というようなごく少数ではない。 何万、何十万というネズミの波が、まるで濁流のようにリカレンスを飲み込む。 振り払っても振り払っても、蹴り飛ばしても、叩き潰しても、握り砕いても、まだ集まり続ける。 体中の肉という肉が噛み千切られる。再生能力で元に戻しても、またすぐに噛み千切られる。 さらにネズミの上にネズミがのしかかり、重圧で押さえ込まれる。立っているのがやっとだった。

 言われた通り、これがリカレンスのいつもの仕事だ。 常に最前線を進み、トカゲたちの王であるアウストに唯一匹敵する再生能力を盾に、敵の攻撃を一身に受ける。 他のトカゲたちにも再生能力が備わっているが、それほど強力ではなく、 せいぜい切れた尻尾を数十分かけて元通りにする程度だ。 そんな中で誰が矢面に立つのが適任かと問われれば、当然リカレンスだろう。 例え再生能力が無かったとしても、異種族かつ元反逆者の彼が矢面に立たされるのは必然だ。

 一方、ネズミたちの特攻も彼らの仕事なのだ。 敵の間合いに一直線に飛び込んでいく。敵を潰すためだけに仲間の上にのしかかる。 仲間の死を踏み越え、敵の死だけに執着する。命を投げ打ち、自らが一つの投石となって相手に飛ぶ。 これが有り余る数の利を最大限活かせる戦法であり、コロニーの不敗を守った掟なのだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 リカレンスは叫んだ。 重圧の中で腰の後ろまで引いておいた右腕を、全身全霊を込めて前に突き出した。 体に乗っていたネズミたちが吹き飛ばされ、後ろのネズミたちにぶつかっていく。 川の水を弾いたように、陣形に大きな穴が開いた。前へ進む道ができた。 飛ばされたネズミたちを踏み越えてやって来るネズミたちを、両腕を振り回して払い飛ばす。 濁流の中をかき分けて進む。前へ前へと。

 あまりのネズミの多さに周りの状況が全く見えない。 後ろでフロードが何か叫んでいるが、喧騒に紛れて全く聞こえない。 ただ、何となく――自分ばかり狙われているような気がする。

 だが、そんなことはどうでもいい。前へ前へと進む。進み続ける。 あの雨の日、王城にいるアウストの元へ向かった時と同じように。

「チッ、こんなのやってられるかよ」

 暫くはリカレンスの後ろで戦っていたフロードも、 余りのネズミの多さに痺れを切らして前線を退いていた。

 後方から眺めると、ネズミの大群は一箇所に球状になって固まっている。 中心にいるのがリカレンスだ。たった今彼を押し潰していたネズミたちを振り払い、砦の門へ進んでいた。
「ヘヘッ、あいつが目立って囮になってくれたお陰で俺様は助かったぜ。いい気味だ」

 フロードは独り言を呟きながら、頭の中の疑念を反芻した。 他のトカゲたちはどこに行ったのだろうか。 確か、砦の左右へと散り散りに走って行ったはずなのだが。

 砦のある岩山を見た。所々に通気口や水路が見える。 投石機のための扉もあり、未だに多くのネズミたちが狙いを定めている。

 そうやってただ砦を眺めるだけで、二つの違和感ある光景に気付いた。

 一つは、ここに着いた時には水が流れていたはずの水路に、今は水が全く流れていないこと。

 もう一つは――
「おいおいマジかよ……やりやがったな、あのクソトカゲ!」


 何十分間戦い続けただろうか。リカレンスはようやく砦の最上階、ハーティの元へ辿り着いた。 砦の中に入ってからはその狭さから一度に相手するネズミの数が少なかったので、あっという間に辿り着いた。 と言っても、その道のりはリカレンスの背丈でも通れる高さになっていた。 他の怪物を通せなければコロニー間の交流の手段が一つ失われてしまうからだ。 この部屋は特に、直立してもまだ余裕がある。 追っ手は暫くは来ない。入ってくるときに入り口を崩したのだ。
「ついに来よったか、トカゲの手先め」

 部屋の奥に佇むハーティを、配下のネズミの怪物たちが守る。 灰色の体毛、突き出た鼻、丸い耳、極めて短い手足はネズミそのもの。それが二本足で立っている。 背丈はリカレンスの股ほどまでしかなく、トールよりも小さい。そんな中でもハーティは特に体格が良い。

 リカレンスはハーティの目を真っ直ぐ見据え、慎重に語りかける。
「俺はお前と話をしに来た。 ……まだ多くは殺していない。今からでも降伏要求に応じるなら、俺はお前たちをトカゲどもから守る。 そのためにここまで来たんだ。王の命令ではなく、俺の勝手で」
「……カッ、カカッ……カーッカッカッカッカッカッ!」

 ハーティは長い歯を持った口を大きく開けて笑い出した。
「何がおかしい。俺はこれ以上の争いは望んでいないんだ。協力を……」
「何を言うかと思えば下らん事を……この期に及んで降伏じゃと?  テメェ、自分が言っとる意味を分かっとるんか?」
「お前なら知っているだろう。 他の降伏したコロニーには特に強い圧力も無く、今まで通りの安全を得られている。放置されているんだ。 これ以上反抗しても無駄なことも、もう分かっているだろう」

 これはその通りで、王であるアウストがかつて出した降伏要求自体がそういった条件を含んでいるのだ。 命は保証する、だから有事の際は命令に従えと。 コロニーの頭数が多いほど、そのボスは多くの命を預かっていると言える。 よほどの覚悟がない限り、この簡単な降伏要求に従った方が得なのだ。 しかし、ここのボスはその理屈にまで真っ向から反発していた。
「無駄かどうかはわしらが決めることじゃ!」
「お前とその仲間たちが死ぬことになってもか?」
「くどいんじゃ!」

 ハーティの渾身の叫びにリカレンスはたじろいだ。
「ええい、かかれぃ!」
「アイサー!!」

 ハーティが叫ぶと、護衛のネズミの怪物たちが一斉に飛びかかった。 それらをリカレンスはタイミングよく拳を突き出すだけで順番に吹っ飛ばした。

 倒れこむ護衛たち。しかし息はある。手加減したのだ。
「……テメェは大きな思い違いをしとる!」

 続いてハーティが飛びかかってきた。 リカレンスはうまく抑えこむために一度横に避けた。 背を見せた所に素早く手を伸ばす……はずだったが、ハーティの方が早かった。 振り向いたリカレンスの背中に爪を食い込ませて張り付いた。
「命を保証するから従えじゃと? ふざけんじゃねぇ! 自分の命くらい自分で守る!  わしらを見下しきったそんな命令に屈するなんざ、弱者のやることじゃ!」
「何を言っているんだ。今まさに多くの命が奪われているんだぞ!  どっちが弱者かだなんて考えている場合なのか?」

 リカレンスはハーティを振り払おうともがくが、ぴったり張り付いて上手くいかない。
「わしら……いや、わしにとってはそれが一番重要なんじゃ!  何者にも屈せず、常に強者として振る舞う!  それが、前のボスが死んで繰り上がっただけのわしが皆に認められた唯一の強みなんじゃ!」

 この国有数の頭数を抱えるコロニーならではの問題。 唯一絶対のボスを選び出し、その体制に従わせることの難しさ。 その一端を垣間見た所で、リカレンスの考えは変わらない。
「そんなことが、たったそれだけのことが、生き延びることよりも重要なのか?」
「ああそうじゃ! 今死ななくても、力に屈すればボスの資格は無くなるんじゃ!  そうなれば死んだも同然! 誰かに従うだけじゃあ自分の意志など無いようなものじゃ!」
「……くっ!」

 リカレンスは力を振り絞り、腕を背に伸ばした。 ハーティの首を掴み、その爪が食い込んだ背中の肉と一緒に引き剥がし、床に押さえ込んだ。
「ボスでなければ生きる意味は無いって言うのか? 俺には分からない。 生きてさえいれば他にもやりようはあるだろう。 現に俺は今、あのふざけた王に従いながらもお前たちを助けようとしている」
「わしはテメェとは違う! 弱者として生きるか強者として死ぬか……わしだったら最後まで戦う!!」
「弱者だって真っ当に生きられる! 苦しくたって、喜べる時はあるし、努力すれば報われる!  俺はそんな奴らを大勢見てきた。何ならそいつらに今すぐ会わせてやろう。考えるのはそれからでも遅くない」
「……へっ、下らねぇ」
「何が……!」

 その時、拘束から逃れようともがいていたハーティが脱力した。
「わしが……な。もうそういう事を全部諦めて、死に方だけを考えとる。 ……本当に、下らねぇよな」

 リカレンスはその態度の変化に驚いたが、すぐに言葉を継いだ。
「だったら逃げてでも生き延びればいいじゃないか!」
「そうはいかんのじゃ。もう……手遅れじゃ」

 リカレンスはその言葉の意味が分からず黙っていたが、はっとした。 ――何かが焦げるような臭いがする。 まさか、トカゲたちが正面ではなくあちらこちらに散らばっていったのは――

 ハーティから手を離し、部屋の外へ向かおうとした。 その時、部屋にネズミの怪物……ハーティの配下の者が多数押し寄せた。
「ボス! 砦中に放たれた火の件ですが、やっぱり全く身動き取れません!」
「緊急用の出入口も全部塞がれています! 先行脱出組が襲撃を受けたという情報も……!」
「も、もうオレたちどうしたら良いか……」

 慌てる余りしゃくり上がったその言葉に答えたのはハーティではなくリカレンスだった。
「あちこちに水路があっただろう。火を消せないのか?」
「な、何だお前は……」
「どうなんだ。まさかただ焼かれて死にたい訳じゃないだろう?」
「……水路は全部トカゲどもに破壊されてるんだ。中には何日も前から壊れていたものもあって……」
「出入口は本当に全部使えないのか?」
「そうだ。火が回っている上に、土砂で埋もれてる。掘ろうにも火が熱くて……」

 悪い予感は予想を上回って現実になった。 トカゲの怪物たちは砦中に火を放っていた。 しかも、それを消させないために水路を破壊し、逃げるための出入口まで破壊していたのだ。 それは確かに正面衝突よりもよっぽど殲滅作戦に相応しいやり方だ。 トカゲたちの動きの正確さからして、これは当初から計画されていたことだろう。 だとしたら自分たちへの命令はダミーだ。――しかし、何のために騙したのか。 自分たちを前線で囮に使うこと自体は変わらないはずなのに、なぜ計画の全貌を明かさなかったのか――

 考える暇は無さそうだ。
「俺なら出口を作れる。案内しろ」
「…………」

 ネズミたちは困惑して顔を見合わせた。その時、後ろからハーティが声をかけた。
「本当にできるのか」
「ああ、できる。できなければ最初から助けようとなんてしない」
「待ち伏せが居たらどうするんじゃ。この数じゃ相手が一体でも太刀打ち出来ん」
「その時は俺が振り払う。お前たちは逃げるだけでいいんだ」
「……そうか……わしらはまだ戦えるんじゃな……」

 ハーティはそう呟くと、次は叫んだ。
「よぉしテメェら! わしとこいつを適当な通用口に案内しろ! 死にたい奴は置いて行くぞ!」
「ア……アイサー!」

 コロニーの頂上から再び走りだすハーティ。目指すは崩された通用口。そこから逃げて生き延びるために。

 通用口は瓦礫で埋まり、炎に包まれていた。穴を掘ろうとして焼け死んだネズミたちが大勢息絶えている。

 リカレンスは躊躇せず炎の中に入り、塞がった壁を思いっきり殴った。 それだけで瓦礫は吹っ飛び、風穴が空いた。
「よし、これで出られる……」

 安堵して振り向いたが、ぎょっとした。火の勢いがみるみる強くなっていったのだ。 急に風を通せば酸素がくべられるので当然と言えば当然の現象。だが彼らにはそこしか道が無い。
「無理じゃ、通れねぇ……」
「全力で走れば何とかなる! そこに留まっていても死ぬだけだ! 急げ!」
「くっ……うおおおおおお!」

 先陣を切ったのはハーティだった。火の中を突っ切り、背中に炎を残しながら外まで出た。 炎はリカレンスが握って止めた。
「あっぢいいぃぃぃぃぃぃ!」
「よし、後は待ち伏せを……」

 外に目を向けたリカレンスは目を疑った。 そこに居たのはトカゲの怪物が七体と……
「おう、奇遇だな? 入り口が全部潰れていたから入れなかったんだ。どれ、少し手伝ってやろう」

 スニアだ。トカゲの怪物くらいならリカレンスでも倒せるが、こいつは厄介だ。

 スニアはハーティに向かってゆっくりと歩き出した。 リカレンスはすぐに拘束しようと手を伸ばしたが、するりと避けられてしまった。 まるでその動きを最初から知っていたかのように正確に、しかしその動きを知らなかったかのように自然に。 そしてスニアはハーティを小石のように蹴り飛ばした。
「ぎゃああっ!」

 リカレンスが助けに入ろうと足を踏み出した瞬間、トカゲの怪物の一人がハーティを腹から踏み潰した。 ハーティの口からあらゆる体液が溢れ出る。
「妙な動きをしてどうした?  ……中にもまだまだネズミが残っているじゃねぇか。ここから入って全員潰さなくっちゃな」

 トカゲたちが、リカレンスが開けた穴にぞろぞろと入っていく。 このトカゲたちの再生能力は微弱だが、皮膚が火に炙られた程度では切られた尻尾よりも簡単に元に戻る。 それができないスニアはその場に留まっていた。そして、リカレンスもその場に留まっていた。

 リカレンスは無言のままハーティの体を揺すった。眼と口が微かに動いているが、呼吸ができていない。 もう助からない。ハーティも、その配下のネズミたちも。
「ご苦労さん。いい働きだったぜ」

 スニアの言葉に、リカレンスは歯ぎしりした。
「そうそう、お前が正面入口まで引き付けたネズミどもだが……投石と放火でちゃんと逃さず殲滅できたぜ。 お前が入り口を崩してくれたお陰だ。報酬も弾むだろうさ。 いやあ、まさかここまでうまく皆殺しにできるとはなぁ。ヒッヒッヒ」

 愉快そうに笑うスニア。対して、顔が硬直したままのリカレンス。

 ――まただ。また、救えなかった――

 コロニーを包んでいた喧騒が、いつの間にか静寂に変わっていた。

 殲滅作戦は大成功に終わった。


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